福井の Home に戻る

アイチローズファクトリー(Aichi Rose Factory:ARF) 三輪真太郎
 【バラ切花生産】
 (愛知県一宮市)

 2008年4月25日に三輪真太郎氏の圃場を訪問しました。
 アイチローズファクトリー(ARF)は,三輪真太郎,樋田幹夫,友松正,山田勝夫(ベルバラ園)の4名の生産者で構成されるイングリッシュローズを中心としたバラ切花生産・出荷組織です。ARFの4名はMPSに登録しており,環境と調和した切りバラ生産を目指しています。
 イングリッシュローズはイギリスのデビッド・オースチン社(David Austin Roses)が庭植えのバラ(ガーデンローズ)として育成した四季咲き性のオールドローズです。ローズ・オブ・ローゼズ社が日本に始めて導入し,その美しさと香りの良さに着目した三輪真太郎氏と滋賀県の大井武氏(大井農園)が切花として世界で初めて生産を始め,その熱意に感銘を受けたデビッド・オースチンが切花専用品種として特別に育種し,現在切花イングリッシュローズとして生産が行われています。
 三輪真太郎氏の栽培面積は800坪で,加温施設550坪と無加温250坪に分かれています。加温施設では土耕栽培と隔離ベッドによる養液土耕栽培の2方式で生産されており,80%が土耕で,20%が養液土耕で生産されています。
 土耕栽培では切り上げ式と折り曲げ式(ハイラック方式)が併用されていました。一般に,ガーデンローズの血が強い品種は切り上げ方式が適しているとのことです。

  

 土耕では牛糞+バーク(3年間堆積)の堆肥が用いられており,堆肥投入量はかなり多く,幅1m弱の畝に対して一輪車1杯/mを入れています。牛糞+バーク堆肥は近隣の乳牛農家から入手し,2年以上自家堆積させて使用しています。また,有機微生物資材「トーマスくん」を使用していました。

 

 隔離ベッドによる養液土耕は夏の地温が高くなる傾向があり,品質が低下しやすい欠点があるため,将来的には全て土耕で生産する予定とのことです。

  

 生産している品種は20〜30品種で,常時出荷できる品種は十数品種とのことです。
 ARFは、デビッド・オースチン社とイングリッシュローズ切花品種のライセンス契約を取得してイングリッシュローズ切花品種を生産しています。

 

 現在,切花用イングリッシュローズを栽培しているバラ生産者は,日本国内では150名ほどいると言われていますが,順調に生産・販売できている生産者は少ないようです。その大きな理由として,栽培や収穫後の取り扱いが通常のバラと大きく異なることが挙げられます。
 イングリッシュローズは一般のハイブリッド・ティーのバラ品種に比べてトゲが多く,花首にも多くのトゲを持っています。収穫やその後の選別の段階でトゲが花弁を傷つけやすく,特別に注意を払う必要があります。花弁に傷が付いたものは灰色カビ病にもかかりやすく繊細な注意が必要です。また,イングリッシュローズの需要は一般のバラとは異なりブライダル需要などが多く,市場や販売店への的確な対応のためには品種揃えが重要であり,イングリッシュローズ専門で生産する必要があるとのことでした。
 LEDについて試験をしていました。LEDは3cmあたり1灯で,赤色LED+青色LED(40:1)区,赤色LED区,対照区が設けられています。対照区に比べて,赤色LED+青色LED区と赤色LED区では切花の到花日数が短い傾向があるようです。実際に,対照区では収穫直前の切花が多く見られたのに対して,LED区では既に収穫が終了して新しく萌芽を始めているものが多いように感じました。また,青色LEDはダニの発生を抑制する傾向があるとのことです。

 

 三輪氏のイングリッシュローズに対する思いを伺いました。
 「庭に咲く繊細な花,イングリッシュローズ。香り,色,表情や姿で私たちを魅了するイングリッシュローズ。このイングリッシュローズの持つありのままの美しい姿を切り花にして,その魅力を受け止めてくれる多くの人にその魅力を伝えたい。」
 まさにイングリッシュローズに魅せられ,世界で最初にイングリッシュローズの切花生産を始めたバラ職人だからこその言葉だと思います。
 ARFは,丸の内フラワーウィークス2008で行われた「五人のバラ職人」(静岡県・市川バラ園の市川惠一氏,滋賀県・ローズファームケイジの國枝啓司氏,滋賀県・杉本バラ園の杉本正樹氏,神奈川県・浜田バラ園の浜田光男氏)にも選ばれました。
 現在,ARFで取り組んでいる企画として,「ガーデンローズを切花として提案する」があります。「ガーデンローズは樹上で咲かせた花と切花で咲かせた花は別の花であり,切花ガーデンローズとしての別世界を提案したい」とのことでした。
 三輪氏の圃場の特徴として,無加温施設でのバラ生産があります。冬季の弱光下で加温して強制的に開花させたバラと,自然休眠をさせて春の地温の上昇とともに樹液が動き始めて一斉に開花し始める自然咲きのバラではまったく花の勢いが違います。バラの持つ本来の特性が現れる「本当のバラの花」を消費者に楽しんで欲しいという三輪氏の思いの表れです。当然,重油高騰の折りに生産コストも抑えて生産することが可能です。

   

 

 HollandWeb社のミッシェル氏からの情報では,ドイツでも北ライン−ウェストファーレン地方で露地の切りバラ生産が行われておりFreiland Roseと呼ばれています。2004年には263haで生産が行われており,5〜10月に出荷されています。生産されている品種はイングリッシュローズタイプのオールドローズが主流で,その自然な姿,色合い,香りがヨーロッパで高く評価されています。
 まさに三輪氏の圃場で見た無加温でのオールドローズの切花生産は,この流れと一致した生産体系と感じました。