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(有)深花園
 【ユリ,アルストロメリア切り花生産】
 (福島県白河市)

 2007年1月15日に平成18年度福島県花き振興トップセミナーの施設見学で(有)深花園を訪問しました。
 深花園社長の深谷孝氏は昭和43年頃から切り花生産を始め,55年(1980年)頃からユリの切花生産を開始し,平成3年(1992年)頃からオリエンタル系ユリを中心とした切花生産を主体とした経営を行っています。平成5年(1994年)には家族を構成員として農業法人を設立し,翌年には白河市の認定法人となり農業生産法人としての資格を取得しています。
 深花園はユリとアルストロメリアの切り花生産会社です。生産拠点は白河市の本社農場の他,隣接町村の泉崎村の畑地(桑畑)を購入し,施設面積はユリが50,000u(15,000坪),アルストロメリアが9,600u(2,880坪)で,集荷場などの面積を含めると計80,000u(24,000坪)の超大規模生産会社です。ユリは年間380万本,アルストロメリアは100万本を生産・出荷しています。私の知る限りで,日本最大のユリ切花生産会社です。

  

 オリエンタル系の主な栽培品種は約30品種で,シベリア,リアルト(白系),バーバレスコ,コブラ,アクティバ(赤系),ソルボンヌ,ロビーナ,メデューサ,ロンバルディア,ルレーブ,マルコポーロ(ピンク系),イエローウィン(黄系)などで,ピンク系60%,白系20%,赤系20%の構成になっています。球根はオランダのOnings Holland Inc.社,Van Zanten Flowerbulbs社,Walter Blom BV社などから輸入しています。11〜1月まではニュージーランドから輸入しています。調度訪問した時もOnings Holland Inc.社から球根が大量に届いていました。
 球根は低温処理済みで氷温貯蔵されていますので,1週間程度かけて6〜8℃で解凍し,その後10℃で20日間順化,発根処理を行います。

 

 労働力は,家族従事者3名,常時雇用者23名,パート従業員27名の雇用労働を主体とした生産法人です。特に社長の深谷孝氏が気を配っていることが従業員の福利厚生制度の充実です。保険制度を完全導入し,就業規則は古河市の中小企業以上を目指しています。
 収穫した切花は,生け水が入った専用の収穫カートに入れられ,空調制御された選花場に運搬されます。選別された切花は出荷箱に入れられ,出荷まで冷蔵庫に搬入されます。選花場及び冷蔵庫の壁面は発泡スチロールが吹き付けられており,温度の維持が徹底されていました。出荷は自家保冷車で行います。生産直後から市場までのコールドチェーンの徹底を自社で保証するシステムは,切花の鮮度保証を前面に出したマーケティング戦略といえると思います。
 出荷先は関東が80%で,そのほかに中京,東北地方,北海道などの23社が取引花き市場となっています。
 社長の深谷孝氏曰く,「深花園は高級切花生産を目的としていません。スケールメリットを活かし,少し上の品質で高い市場評価を受けることを目指しています。」

   

 さすがに福島といえども東北地方です。年間暖房費は7,000万円にのぼり,総売上の10%にも及びます。特に近年の重油の高騰は経営上も大きな課題です。温室はすべて3層のカーテンを装備していました。カーテンの最外層はシルバーフィルムで,赤外線反射による保温効果を高めています。

 

 暖房ダクトの設置が普通の配置と異なっていました。一般に暖房ダクトは温室の中央を中心に配置するのが普通です。深花園ではダクトが温室の側面周囲に設置されていました。
 深谷孝氏曰く,「以前はダクトを中央を中心に配置していたが,温室の周囲の切花出荷が常に遅れて一斉収穫ができないことに悩んでいました。温室中央部は何もしなくても保温効果が高く,温度が一定していることに気が付き,いっそのこと周辺を重点的に加温することで温室全体の温度ムラがなくなり,収穫も一斉に行えるようになり,収穫作業効率向上にも繋がっています」
 面白い取り組みです。暖房機の設置場所も自由に設定でき,側面に空気膜を設置するとさらに効果が高いと感じました。

 

 深花園の生産性は坪当たり4万円とのことで,岐阜県内でもこの坪当たりの売上金額を維持できている切花生産者は少ないと思います。ユリなどの球根切花は購入球根費用の割合が大きく,経費の35〜40%を占めます。市場単価が低迷している中で高い生産性を挙げている深花園には特別な経営ノウハウがあるものと思います。

   

 様々な生産性向上のノウハウが至る所で見られました。一斉切花を基本としていることから通路は整備されています。下の右写真の畝の側面に張られたマイカ線をパイプに沿って上部にたくし上げていくことで切花作業の通路が確保され,収穫作業の効率化が図られるとのことです。

 

アルストロメリアは夏の地中冷却が重要です。深花園では地下水を利用して20℃以下を維持しています。

 

 連作障害による土壌病害の回避のために大型蒸気消毒機を利用して土壌消毒を行っています。地表下10cmの地温60℃を目標に20分の土壌消毒を行います。年間1〜2回程度ピートモスと腐葉土を施用し,土壌改良を行っています。

  

 福島県は春先の強風の通り道となっています。訪問した2009年1月にも風速30mを超える台風並みの強風の影響を受けて大きな被害が出ました。深花園では暴風ネットの設置で被害を軽減する試みが図られており,さらにパイプハウスには45mmのパイプが使用されていました。45mmのパイプというと,工事現場の足場に使われている支柱パイプと同じ太さです。