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精耕園
 【山野草鉢物生産】
 (愛媛県今治市国分)

 2006年6月25日に以前から親交のある精耕園の越智保彦氏を訪問しました。
 精耕園は山野草の生産を行っていますが,限られたマニアックな山野草趣味家を対象とした生産ではありません。「日本人が本来持つ和の心を多くの人に感じてもらいたい」という気持ちから生産を行っています。
 精耕園の生産面積は1,500坪で,500品目,30万ポットを年間出荷しています。家族4名の他,12名のパートタイマーを雇用しています。
 市場出荷は行っておらず,9cmポットを中心に全国の卸を主体に宅配で配送しています。

 越智保彦氏の経歴は多彩です。18歳で就農して父親と共に水田と酪農の複合経営を始めました。その後愛媛県の方針でミカンが注目されたことから有機栽培を目指してミカンと養鶏の複合経営を行い,果樹景気の衰退を契機にそれまでの果樹の技術を活かして植木・造園を行っていました。その後,植木・造園の技術を活かして盆栽を生産し始め,1972年に鉢花生産に転向し,現在の山野草の生産を始めました。

 私が精耕園の越智さんと知り合った2001年に見せていただいた大文字草の品種の数々は1990年頃から始めたものですが,今ではさらに高度に発達して精耕園のホームページで紹介されています。その成果は驚くべきものがあります。

 精耕園での生産は,施設と露地を極めて効率的に組み合わせた生産体系ということができます。
種子繁殖性の野生種や,育種過程で計画的に交配された種子は低温処理などを行った後に施設内で播種され育苗されます。

 

 育苗した実生個体は選抜しながら鉢上げを行います。自生地の環境を考慮して低日射量が必要なものについてはベンチ下も有効に活用します

 

施設での管理が必要ない植物については露地での管理を行い,植物本来の成育能力を最大限に生かします。

 

商品開発のための様々な素材が生産されています。

   

 愛媛県今治市は瀬戸内気候で,夏の気温は岐阜県ほど高温にはなりませんが,それでも高地に自生している植物に対しては遮光が必要です。精耕園が独自に設計した遮光・雨除け施設は理論的にも完璧な施設でした。スパンごとに区切られた区画の屋根は傾斜がついており,上部に滞留した高温の熱気はイスラエルタイプのハウスのように傾斜の上部開口部から放出されます。遮光カーテンが被覆ビニールの上に設置された外部遮光で,遮光カーテンは巻き取り収納ができ,台風対策ができます。

 

自宅前の庭には各種の山野草がロックガーデン風にブロックごとに植栽されており,母株の維持機能も持っていました。

 

 少々ブームが終わりかけたようにも思いますが,極めて多種類のホトトギス類が生産されていました。岐阜大学には私の恩師でホトトギスの分類で世界的に有名な高橋弘教授がいますが,高橋先生と共同研究ができればホトトギスブームを一過性にすることなく,新種の開発も可能かもしれません。

 精耕園の新たな開発商品として岩付き植物を挙げることができます。シダ類やフッキ草(?)や大文字草などを組み合わせた夏向きの商品です。鹿児島や伊豆から加工した軽石を購入して使っています。販売出荷は園芸卸を主体に出荷しているとのことでしたが,この商品は日陰に強い植物ですので室内での鑑賞に適しており, 20〜30歳代のフローリングのマンションに住む若者世代に最適な商品といえると思います。この団塊の世代の子供達の世代にとってこの商品は「新たに見つけた日本人としての心」として評価されています。
 しかし,この20〜30歳世代の客層は園芸店で買い物をしていません。園芸店を主要顧客とする園芸卸への出荷は岩付き植物の販売ルートとして適していないように感じました。

   

 岩付き植物の古びれた雰囲気を出す方法を教えていただきました。コケを乾燥して粉状にしたものとケト土を混合したものを軽石に塗ると,乾燥させたコケはすぐに発育し始めて苔むした軽石になるとのことです。

 ほとんどの植物は鹿沼土を主体とした用土で植え込まれていました。これは生産にも適しているのに加えて,消費者の水管理を考えた場合にも適しているとのことでした。
 しかし,鹿沼土を使う限り若い人には不向きのようにも思いました。その理由は鹿沼土はその水はけの良さから潅水頻度が高くなる傾向にあり,若い世代が購入後に水管理するのに適していないと思いました。

 次の新商品候補として水栽培植物をチャレンジしていました。3cmポットで生産した水栽培植物を,水を張ったガラス容器に組み合わせて入れるだけで簡単にテーブル・ウォーターガーデンが完成します。

 驚いたことに,各種山野草の組織培養にも積極的に取り組んでいました。担当は後継者の越智佳宣さんです。大量増殖に留まらず育種にも活用していました。驚いたことに,早池根ウスウキソウの組織培養に取り組んでいました。この培養室から近い将来の商品が次々と産まれてくる予感を感じました。

    

 ササユリの実生繁殖にも挑戦していました。当然,培養施設でもササユリの増殖とin vitroでの肥大について試験をしていました。私も15年前にササユリの組織培養による大量増殖の研究をした経験から色々とアドバイスができました。

  

 高度経済成長を経て,豊かな欧米風の生活を獲得した過程で「自然と共生する」という日本人が本来持っていた心を見失ってきたのかもしれません。しかし,バブルがはじけて景気が低迷しているなかで,再び自然との共生という考え方が重要視されてきたように思います。
 団塊の世代は高度経済成長前の日本の姿を知っている人達ですので,和の心は懐かしい思いを感じさせる商品といえると思います。しかし,その団塊の世代の子供達の20〜30歳の世代にとっては「新たに見つけた日本人としての心の糧」であるのかもしれません。
 精耕園では,大文字草などの団塊の世代を対象とした商品や,岩付き植物やテーブル・ウォーターガーデンのような20〜30歳代を対象とした商品など,消費者ターゲットを明確にした経営戦略を目指しています。後継者の越智佳宣さんの活躍を期待しています。

新たな販売戦略の1つを紹介します。
【ラベル】

 経営者の越智保彦氏の次男が経営している園芸店「季節の花 花心(カシン)」に連れて行っていただきました。精耕園のアンテナショップ的な役割も果たしています。
 店内は和風の雰囲気が漂っており,中古の家具などを商品展示に活用してありました。下の中央の写真は昔の箱階段を利用した展示棚です。和風鉢物だけではなく,切花アレンジメントや花束加工もしています。

  

ウチョウランが大量に展示・販売されていました。

 

 山野草の「雪ボウズ」も鉢を工夫すればこんなに現代的な商品に生まれ変わります。やはり苔玉が置いてありました。シノブの岩付きも現代風な商品に感じさせられます。

   

精耕園の新商品ウォーターガーデンも販売されていました。