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(有)お花屋さんぶんご清川
 【輪ギク切り花生産】
 (大分県豊後大野市)

2005年12月14日と2006年4月15日に(有)アジア園芸事業の鄭新淑さんの紹介で(有)お花屋さんぶんご清川を訪問しました。訪問にあたってはイシグロ農材(株)福岡営業所の野口謙司氏の案内をいただきました。

(有)お花屋さんぶんご清川は,農事組合法人「出荷組合お花屋さん」に参画しているキク切花生産会社です。農事組合法人「出荷組合お花屋さん」(代表理事小久保恭一氏)は,全国有数のキク切花産地の愛知県渥美町で1999年に設立された生産出荷法人です。組合員は愛知県22名,大分県2名,長崎県2名の計26名の生産者からなる出荷組合で,組合員の平均生産面積は2,400坪です。組合設立当初は渥美町の生産者のみでしたが,現在は長崎県や大分県まで生産者が広がっているため,インターネットを活用して出荷配送業務を進めています。また,生産面積も年々増加し出荷量が急増しているため,集荷専用の事務担当者として小久保さんの次女があたっています。現在,お花屋さんの出荷の50%が契約販売で残りが市場への出荷を行っていますが,将来的には70%程度を契約販売に移行したいとのことでした。
出荷組合の運営において最も重要なことが規格の統一です。小久保さんの言によると「技術の差より意識の差」の統一が最も難しいとのことです。また,経営の安定を図る上で下級品の販売に最も気を使うそうです。
日本国内の輪ギク流通量は年間8億本程度です。「出荷組合お花屋さん」の生産出荷量は1,000〜1,500万本程度と思いますので国内流通量の1〜2%程度ですが,10年後の目標は10%とのことです。
農事組合法人「出荷組合お花屋さん」の特徴の1つに中国人研修生の活用を挙げることができます。組合員全てが中国研修生を受け入れており,総人数は185名にのぼるとのことです。

【(有)お花屋さんぶんご清川】

 (有)お花屋さんぶんご清川は小久保恭一氏が大分県で設立した生産法人で,2004〜2005年にかけて大分県豊後大野市(旧清川村)に6億6千万円の補助事業(3/4を国、県、村が助成、残りは公庫資金で対応)で30,000u(9,000坪)のフェンロー温室を整備しました。30,000u(9,000坪)はA〜F棟に分類されており,各棟の施設内部は30m間隔で分割され,真ん中に軽トラックが走行できる通路が設置してあります。30m間隔で温室を分割することによって,生育ステージに合わせたきめ細やかな温度管理ができることに加えて,1区画の面積が広すぎると芽摘み作業などの労働達成感が減退するとのことで,海外のプランテーションで採用されていたものを参考にしたそうです。


 

 従業員は3名で,研修員7名,地元のパートタイマー10名(実数)と中国人研修生で生産が行われています。中国人研修生は将来的には9名を招聘する予定です。パートタイマーと中国人研修生は定植、芽摘み等の作業に従事し,従業員と研修員は防除,収穫作業,出荷作業を担当していました。中国人研修生の芽摘み作業の早さには目を見張るものがありました。是非,下のビデオを見て実感してみてください。
 生産品種は9〜5月は神馬,6〜10月は岩の白扇の2品種の単一品目生産です。9,000坪の施設が夜間に電照される光景は見事です。



 

 (有)お花屋さんぶんご清川の設立にまつわる裏話です。愛知県渥美町で8,000uの面積でキク切花生産を行っていた小久保さんの所に一人の研修員がやってきました。研修期間が終了に近づき,独立を目指して全国各地の新規就農補助事業を検索していたところ,清川村が遊休農地などを生かした農業版“誘致事業”が目に止まりました。事業担当職員との交渉の中で,小久保さんがついうっかりと「こんな良い条件ならば,私もここに来てキクの生産をしようかなぁ」と話したことが契機となり,話がトントン拍子に進んだそうです。
 2005年4月に苗の定植を開始しました。年間300万本、販売額2億円以上を目標としています。2006年にはさらに6,600u(2,000坪)の増設を計画しており,10年後には販売額20億円が目標ということですが,まんざら不可能な数字ではないように思いました。

  

 30,000u(9,000坪)温室内は1,000u(300坪)を1単位にブロック分けされています。1ブロックごとに5日間隔で苗を連続して直挿し,年間3回の切花を行う周年切花栽培を行っています。
 苗は中国,インドネシア,ベトナムから輸入しています。品種では岩の白扇は中国,神馬はインドネシア,ベトナム,中国から輸入を行っていました。

   

 訪問した2005年●月は重油が高騰して,各地で大きな問題となっていた時期でしたが,温度管理は,消灯前15℃,消灯後から深夜まで20℃→18℃→早朝16℃の変温管理が行われていました。連棟ハウスであることと,ブロックごとに区分されたシェードカーテンの効果で暖房費は当初想像した以上に少なく維持されているとのことでした。秀品率は70〜80%です。

  

 潅水に用いる水は100mの地下水からポンプアップし,10tタンクに貯水して使用しています。10tタンクは味噌製造会社から中古品を購入したそうです。潅水は頭上潅水を採用し,温室上部に潅水ノズルが配置されていました。

  

 2006年に訪問した4月に3月の出荷実績を見せて頂きましたが,1,500ケースという恐ろしい量を出荷していました。選別出荷は,自動選花機2台で選花し,水揚げなしで出荷箱に梱包されて冷蔵庫に搬入し,大分空港から飛行機で各販売先へ配送するとのことです。
 (有)お花屋さんぶんご清川の名物は小久保さん手作りの昼食です。とても美味しい料理を従業員,研修員,中国研修生ともにテーブルを囲んでワイワイ話しをしながら食事する光景は実に家庭的で,精神的な交流が図られていました。

【小久保恭一氏の菊にかけるポリシー】

 国内のキク切花流通量は8億本であるが,その需要の中で1割は高級品が占める。このことはキクに限らず全ての切花に当てはまる。この1割の法則に従えば,仮に10年後のキクの需要が5億本に下がっても5000万本の高級品需要は必ず維持される。現在,農事組合法人「出荷組合お花屋さん」の生産出荷量は1,000〜1,500万本であるが,10年後までに5,000万本に生産量を増加させてもトップ10%を維持できる限り需要も価格も維持できる。「出荷組合お花屋さん」が常にキク切花の品質トップを走り続ける限り,中国からの輸入が増加しても揺るぎのないその地位を維持し続けると考える。
 今までの花き生産は「できたものを売る」だったが、今後は「消費者の要望に添った商品を提供する」ことを念頭にキクを生産することが必要である。
 小久保氏は中国に2つの農場を経営しています。中国での農場経営の基本は「中国人従業員との信頼関係を築くことである」と述べています。中国に対して色々な不満を述べる方がいます。特に中国と仕事の関係がなければ個人の価値観であり,何もコメントを述べる立場にはありませんが,中国から切花輸入をしている葬儀会社の方が「中国人は信用できない,まず疑ってかかることが一番大切」を言っていたことと正反対の立場を取っています。これが海外農場を持つ経営者の基本的な考え方なのだと感じました。
 小久保さんは中国以外にキク苗生産のためにベトナムやインドネシアにも契約農場を持っています。キクがバラやカーネーションと大きく異なるところは日長反応性があり,電照栽培を行う必要があることです。海外でのキク生産で最も重要な点は「電気」だそうです。水や気候も大切であるが,電気のインフラが整っているところを優先して生産農場を探すと意外と候補地が少ないとのことでした。日本に住んでいると,電気は水と同じようにあるのが当たり前に感じていますが,電気に問題のない所はアジアの中では必ずしも一般的ではないようです。中国でキクの生産がカーネーションに比べて限定される大きな理由だということを実感しました。

【小久保恭一氏の愛弟子の夢】

 (有)お花屋さんぶんご清川の研修員の目黒君の夢は,小久保さんから学んだキクの生産技術を海外で開花させることです。目黒君は技術力と経営センス,将来構想を持っていますが,残念ながら海外農場を購入する資本を持っていません。
 「自分の技術力と夢に資金を投じてくれる投資家」を探しています。
 農業以外の,例えばIT産業では若者のベンチャー企業に投資する投資家がいるようですが,農業界でも目黒君のように技術力を持った積極的な若者に投資をしてくれる方はおられないでしょうか?

【輪ギクの将来(福井の雑感)】

 キクは世界の切花市場でどこの国でもトップ3に位置するメジャーな切花品目です。しかし輪ギクは日本特有の切花で,白キクの主な使用目的は葬儀に限られます。これまで日本に利用が限られる輪ギクは,スプレーキクと異なり,国際市場の中から隔離された存在でした。したがって,輪ギクの苗生産をブラジルや中国,ベトナム,インドネシアに委託しても,輸出先が日本に限定される輪ギク切花が海外で生産されて日本に輸出されることはありませんでした。しかし,2000年頃から中国で輪ギクが生産され始め,日本への輸出が年々増加し始め,国内の輪ギク市場は一気に国際市場価格に突入し始めました。
 葬儀に使用される輪ギクの品質とは何でしょうか?葬儀ではリターンといわれる複数回のキクの使い回しが行われています。仕入れたキクは祭壇の一番奥に飾り,次第に祭壇下に降ろして最後は納棺時に一緒に入れるか,花籠としてお持ち帰りしてもらって廃棄物処理を行います。高品質なキクはこの複数回の使用に耐えうる日持ち性を維持していることです。小久保氏によると,東日本では葬儀での複数回の使い回しが一般的であるのに対して,西日本では一回限りの使用が一般的であるとのことです。
 中国から輸入した輪ギクは一回限りの葬儀の利用を対象に使用されています。首都圏の大手葬儀会社が広げている「生花祭壇」はオンデマンドの葬儀で,生花を主体にデザイン性の高い祭壇を企画していますが,これは一回限りのキクの使用が主体であり,もっぱら中国産のキクが用いられています。
 他の切花と比べてユーザーが葬儀会社に限られる輪ギクはマーケティングが極めて容易で,その気になってマーケティングを行えば,それ程苦労することなく新しい用途を開発することもできたように思います。しかし,輪ギク生産業界はその努力を怠って,現在のような状況が生まれたのではないでしょうか。
これからは,「生産に徹して良品質の切り花を生産する」ではなく,消費需要を常にマーケティングして消費者の望む切花を生産するとともに,常に新たな需要の開拓をし続けることが重要になってきていると思います。葬儀需要のみに頼る輪ギク生産ではなく,葬儀以外の需要拡大を他業種と共同して仕掛けていくことによって,消費のパイを大きくする努力が必要ではないでしょうか。
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