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丸朝園芸農協
 【サンダーソニアなど切花生産】
 (千葉県芝山町)

 古くからの友人である千葉県君津農林振興センターの本居さんの案内で,2006年1月に丸朝園芸農業協同組合花き部を訪問しました。
 丸朝園芸農協は千葉県北東部の房総半島の付け根に位置する北総台地の千葉県芝山町を中心とした2市4町からなっています。北総台地は古くからサツマイモ,落花生,ネギなどの畑作物の大産地として発展した地域で,丸朝園芸農協も,成田空港の南西に隣接した古くから千葉県有数のスイカ,ニンジン,トマト,カボチャなどの畑作産地として発展してきました。
  1992年に経営安定を目的に,これまで経験のなかった花き生産を導入することを決定し,千葉県農林振興センターとの協力関係を基盤に,キンギョソウ,穂ケイトウ,ヒマワリ,アスターなどの試験栽培と出荷を行い,主要品目の模索を繰り返した結果,当時ニュージーランドからの輸入球根を用いて生産されていたサンダーソニアにたどり着きました。
丸朝園芸農協花き部会員と生産面積の推移
1992年 1996年 1999年 2003年 2004年
花き生産者数 14 32 38 41 47
面積(a) 100 900 1,500 1,800 2,000

   
1999年に完成した丸朝園芸農協のシンボルでもある集出荷センターです。
施設全体がサンダーソニアの花を模した吊り鐘状になっていて,集荷場,冷蔵庫,会議室があります。

    
冷蔵室の内部です。球根貯蔵室と切花の予冷庫に分かれています。


ハウス横に広大な畑作地があり,畑作物産地を伺うことができます。中央右の空に,成田空港への航空機が小さく見えます。

 
切り花の生産施設はビニルハウスが中心で,スイカやトマトの既存施設を活用して切花生産が行われています。

 サンダーソニアの生産を決意した丸朝園芸農協では,1993年にニュージーランドから3万球の球根を輸入し,サンダーソニアを生産し始めました。リゾクトニアや白絹病などの土壌病害の防除体系を千葉県農業試験場と連携して確立するとともに,球根貯蔵技術や休眠打破技術を確立しながら生産者数も生産面積も増加してきました。
 以前は土壌消毒を毎年行って土壌病害の対策としていましたが,現在ではフスマ堆肥を投入して還元消毒による対策を取っています。また,病気にかかった球根を選別して除去することで,土壌病害の発生はほとんどみられないとのことです。
丸朝園芸農協の主要品目は,現在サンダーソニア,畑地カラー,リューココリーネの3品目で,全国有数の生産量を誇っています。
主要品目の生産状況
品目 販売数量(千本)
サンダーソニア 3,908
カラー 3,925
リューココリーネ 1,858
その他 2,239
合計 11,930
サンダーソニアは周年生産体系が確立し,1999年には年間450万本(2004年は380万本)を北海道から沖縄まで全国80市場に出荷しており,全国60%を生産する日本一の産地としての評価を得ており,サンダーソニア単品目で5億円を超える産地に成長しています。

 

 
サンダーソニアに発生したチューリップモザイクウィルスです。発症がみられたものは即座に抜き取られます。

 リューココリーネはサンダーソニアに次ぐ品目として1995年に導入されました。同様に1999に導入された畑地性カラーはリューココリーネと同様に周年生産できる唯一の産地として高い評価を受けています。

  
リューココリーネの生産温室です。
右の写真の花は,根ダニによる被害のために発生した奇形花です。
根ダニの防除はなかなか難しいのですが,丸朝農協であればきっと克服することでしょう。

 畑地カラーはハイブリッド系とミニ系を中心に15品種が生産されています。7年前にニュージーランドから輸入して生産を開始し,その後は分球で増殖を図り,栽培面積を増やしていった。

 
畑地カラーの生産温室です。

 サンダーソニア,リューココリーネ,カラーの3品目に共通する技術として,冷蔵庫を利用した球根の休眠打破,貯蔵技術があり,他産地にはマネのできない周年出荷体制の確立による有利販売を目指しています。
 これらの主要品目の他,ヒマワリ,アスター,キンギョソウ,ダリア,ユーチャリスなど30品目以上を生産しており,農協主体による共選共販体制を完備して年間9億円の販売額を達成し,全国の花き市場への出荷を行っています。全国市場への出荷体制の確立に貢献しているのが成田空港です。成田空港には輸入切花を全国各地に配送する花き専門輸送会社があります。花き輸送会社との協力関係を結んで全国158社への販売経路を確保し,有利販売しています。また,首都圏に近い立地条件を最大のメリットとしてブランド化を図っています。
 岐阜県には岐阜花き流通センター農協という鉢物の集出荷組合があり,全国55市場への出荷を行っていますが,全国配送のメリットは個々の生産規模拡大を容易にします。まさに,丸朝園芸農協は全国配送によるメリットを最大限に生かす戦略を進めることで大きく成長した産地ということができます。

     
オオニソガラム                   ラナンキュラス

    
ハイブリッド・スターチス

主要品目の生産状況
品目 販売数量(千本)
サンダーソニア 3,908
カラー 3,925
リューココリーネ 1,858
その他 2,239
合計 11,930
 丸朝園芸農協の新規作目に対する意欲的な取り組みを代表する最近の話題に「ポンポンマム」があります。2003年に視察に出掛けた福岡県八女市で菊品評会でポンポンマムを初めてみた組合員が,「洋花としてアレンジメントにも使え,キクに見えないキクとして使えるかも!」と思いついたのが始まりです。早速,キクの種苗会社の精興園から品種を導入し,2004年には挿し芽と栽培が始まりました。16名の生産者が失敗例を公開することで,技術向上速度が格段に加速し,試行錯誤を繰り返して技術革新を進めていきました。商品名は「ポンポンピンポン」です。
 丸朝園芸農協は花き生産地としては後発組であるにも関わらず,大産地として発展してきた大きな原動力となったものとして,生産者自身が非常に研究熱心であることが挙げられます。
 私自身産地視察のつもりで訪問したのですが,2時間の懇談会が自動的に開催され,質疑が絶えませんでした。毎月の定例の飲み会では,花き部創立以来カラオケをしたことがないそうです。飲みながら12時過ぎまで議論が続いて,同席した普及員が収拾に困惑するほどだという話を伺いました。ちなみに飲み会ではお互いに失敗例を紹介し合い,全員の技術の向上を図っています。
 もう一つの元気の事例として視察研修を挙げることができます。海外視察を含んで年間10回以上の産地視察と市場訪問を行い,導入品種の選定や出荷時期の検討を行っています。
 訪問したおりに聞いた逸話です。
 オランダを訪問した時にリューココリーネの切花を花店で見かけました。その当時日本で生産されていたリューココリーネに比べて倍以上の切花長があり,品種特性の優秀さを実感した組合員はその球根生産会社を即座に訪問し,3年間の生産球根の全量買付契約を結んで帰国したそうです。3年間の球根購入の結果,球根の自家増殖が可能となり,購入契約を終了したのですが,その2年後,再度オランダを訪問した時にはその球根生産会社は倒産して他社に売り渡されていたそうです。海千山千のオランダ種苗会社を相手に対等以上に渡り合う丸朝園芸農協,恐るべし!と感じた逸話でした。


訪問した時にも,ハウスの中で生産技術に関する論議が始まりました。
いつでも,どこでも基になったことはお互いに意見を交換しあうことで技術の向上を図っています。