赤塚植物園
【花木生産,組織培養】
(三重県津市)
2005年6月10日に,国際植物増殖者会議日本支部(IPPS-Japan)の第12回三重大会に参加し,赤塚植物園を視察しました。
赤塚植物園は1961年に発足し,安濃農場,FFCユートピアファーム,生物機能開発研究所などの他,ブラジル,ハワイ,タイなど5カ所に農場を持っています。
赤塚植物園の名前を日本中に広めた大きな事業の一つとして「ランの生長点培養による大量増殖」を挙げることができます。ランの生長点培養はフランスのMorelが1960年にシンビジウムで成功していましたが,赤塚充良氏は独学で論文を読み,1967年に日本で初めてランの生長点培養と大量生産に成功し,洋ランの大衆化に寄与しました。
また,サツキの挿し木よる大量繁殖技術を確立したことで,三重県の特産である「三重さつき」の産地化にも貢献しました。
これらの業績を高く評価され,1983 年には第 42回中日農業賞・農林水産大臣賞を受賞し,同年には第
22 回農林水産祭園芸部門・天皇杯を受賞しました。
現在の赤塚植物園の生産の特徴は,シャクナゲとカルミア(Kalmia latifolia)の組織培養による大量増殖技術,その順化・鉢上げ,栽培までの一貫した生産方式を挙げることができます。
生物機能研究所には無菌接種室,培養室があり,シャクナゲやカルミアの培養植物が入ったフラスコが大量に培養されていました。
赤塚植物園の培養植物の順化技術は国際水準でも屈指の技術で,ダイレクトルーティングといわれる方法を用いています。
下の写真は順化施設です。一見すると何も特徴のない施設ですが,湿度と温度の調節が的確に管理できます。
岐阜大学園芸学研究室ではバラの育種を行っていますが,胚培養したバラの順化を赤塚植物園に依頼しました。
下の写真左のように水浸状を示す個体もあって順化が難しそうな植物だったのですが,1ヶ月後には見事に発根し,すべての個体を順化することができました。
フラスコで増殖したシャクナゲやカルミアの培養個体は,フラスコから取り出してシュートの切口に発根剤を処理した後,そのまま順化処理されます。順化トレーから判るように欠株はなく,100%の順化成功率です。
順化が終了した個体は安濃農場に運ばれ,栽培されます。安濃農場は独立行政法人野菜茶業研究所の近くにあり,1万坪の面積があります。
組織培養による増殖もあって生産されている苗の生育は均一です。
シャクナゲの年間生産量は,12〜13万鉢,カルミアは50万鉢で,主にホームセンターに出荷されます。いずれも生産量が大きいため,花き市場での販売では対応が難しく,販売ロットの大きいホームセンターでの販売が主流です。
生産されているシャクナゲは,赤塚植物園が選抜・育成した耐暑性,耐乾性,強健性に優れた「スーパーローディー」で,下の写真のように大きな株立ちになります。春の開花時期には見事な花を着けることでしょう。
安濃農場では,シャクナゲとカルミアの生産の他,ベニカナメモチ「三重カナメ(スカーレットパール)」の挿し木繁殖も行っています。挿し木はポットへの直接挿しです。密閉挿しを行わないで,下の写真のように寒冷沙で覆った施設の中で管理します。4〜5月に挿し木を行い,9月には30pにまで成長し,ホームセンターに出荷されます。年間生産量は20〜30万鉢です。
安濃農場では,シャクナゲ,カルミア,ベニカナメモチの他にドラセナ類,マサキ(8品種),ハツユキカズラ,ミラクルフルーツなども生産しており,これらの植物は「カトレア会」の会員に配布されます。「カトレア会」はFFCパイロゲンの購入者の会員組織で,購入金額に応じたポイントに応じてリストの中から好みの植物を選んで購入することができる制度です。
赤塚植物園が最近注目している植物に熱帯スイレンがあります。近い将来,熱帯スイレンブームが起きるかもしれません。
赤塚植物園の特徴として,FFC(Ferrous Ferric Chlirideの略)技術の推進があります。特殊な処理を行った水は生物の活性を高める効果があり,安濃農場ではFFC効果の実践農場としての役割も担っています。
ご存じでしたか?
昭和50年に赤塚植物園が「ブライダルベール」のつり鉢を初めて生産し,日本国内につり鉢ブームを定着させました。今では当たり前のように思われる「つり鉢」はここから始まったのです。
2001年に,本社に隣接して建設されたFFCユートピアファームは植物園を思わせるような温室です。中には素晴らしい生育を示すハンギング植物が展示され,さらにはバオバブやトックリキワタなどの大型植物が展示されていました。
ユートピアファームでは高齢者の方々が,定年後に植物に関わる仕事を通じて豊かな人生を過ごすことを目的に様々な取り組みが行われています。
ユートピアファームで見かけた植物で,鉢物にしたら面白いと感じたものが下の写真です。名前は「テイキンザクラ(ナンヨウザクラ):Jatropha integerrima」といいます。枝先に5〜8個の朱赤色の花を着けます。温度さえあれば1年中開花しますが,春先が開花盛期です。どなたか生産してみませんか?