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パソナO2(パソナオーツー)
 【植物工場】
 (東京都千代田区)

2005年4月5日,学会の帰りに総合人材派遣会社(株)パソナが経営する植物工場を訪問しました。
パソナO2(PASONA O2)はJR東京駅丸の内口からすぐの東京都千代田区大手町2-1-1 大手町野村ビル地下2Fにあります。
以前はりそな銀行(旧大和銀行)の金庫室で,エレベータで地下2階に降ります。

  

全体が6種類の部屋に分かれていて,「Room1:白色発光ダイオード(LED)による花の栽培」,「Room2:メタルハライドランプによるハーブ栽培」,「Room3:メタルハライドランプとナトリウムランプによる稲の栽培」,「Room4水耕栽培によるトマトの栽培」,「Room5:野菜の栽培」,「Room:21世紀型の植物栽培」となっています。
 Room1

「白色発光ダイオード(LED)による花の栽培」
 Room 1の花の栽培は,太陽光の届かない地下で植物栽培を行い,生活に潤いと安らぎを与える新しい都市空間としてはおもしろい取り組みとは思います。 しかし,園芸産業に携わるものとしては,鉢植えの観葉植物や切花で充分その役割を果たすことができるのではないかと考えてしまいました。

 

 Room 2はメタルハライドランプによるハーブ栽培コーナーです。ハーブ類は一般的に光合成の光補償点が低く,弱光線下で生育できるため,このような植物工場での栽培に適しています。
 特にハーブ類は紅茶に直接葉や幼芽を口に入れて熱水抽出するため,農薬の残留が問題となります。植物工場のような隔離された空間で栽培することで無農薬栽培が可能となり,消費者にも受け入れられやすいと考えます。また,重量換算の価格は著しく高く,生産コストの点からも適していると思います。

 

Room 3

パソナO2の目玉となるコーナーです。
羽目板で作られた棚田に稲が育っていました。
 恐らく東京の人は水稲が育っているところを間近で見ることは極めて少ないのかもしれません。日本人としての心の故郷としての水田は都会人の心を癒すことでしょう。しかし,日本の稲作農業を考えると,ただでさえ生産コストが高くて水田の維持は「不動産維持の苦肉の方策」とまで言われているのに,人力で田植え,稲刈りをすることが農業への就農訓練になるのかいささか疑問を感じてしまいました。
 とはいえ,光景としては綺麗ですし,「こんな所にお米が栽培されている!」といった感動を呼び起こす効果は充分です。チョット気になったのですが,何という虫か判りませんでしたが,ニカメイガのようなものが飛び回っていました。無農薬をポリシーとした場合には困った問題とならなければよいのですが・・。

  

Room 4

水耕栽培によるトマトの栽培
 このコーナーではトマトの水耕栽培が展示されていました。生産という意味ではなく「展示」という点から見るとトマトはなかなか効果的な作物です。しかし,トマトは光合成の光補償点が高く,人工照明のみで栽培することは難しいため,果房(トマトは果実が房状に着く)の果実数が1〜2個と少なく,生産面では限界です。下の写真でも判るように,トマトはあまり実っておらず,枝葉が茂っていました。
 光合成の光補償点が低いピーマンであれば,そこそこの生産性も期待できるのではないかと思います。

 

 Room 5は野菜畑と称されているコーナーです。きれいな展示方法とは裏腹で,実際の野菜の生長は見るも無惨な状況でした。ちょうど発芽したてのアブラナ科野菜がありましたが,光量不足のせいでモヤシ状に徒長しており,播種の仕方ももう少し丁寧にすると良いのにと思いました。
 イチゴも栽培されていましたが同様に光量不足で樹勢が悪く,結実していたイチゴは「ヘビイチゴ」のような小指の爪程度です。作物の選択が悪いのでしょうか・・。

  

Room 6

 21世紀型の植物栽培と銘打ったコーナーでしたが,
 一般的な蛍光灯を照明装置を用いたサラダナの
 水耕栽培施設でした。
 生産規模としてはそれほど大きくはなく,技術的に
 も10年以上前の技術水準で,特に目新しいといった
 感じではありませんでした。
 すみません。一般の方々にとってはビックリかもしれ
 ません。
 両側の栽培Roomの中心にラウンジが設けられており,その壁際には様々な作物が蛍光灯で栽培されていました。栽培Roomで生産した野菜をこのラウンジで試食するとのことです。
 下右の写真は何かの種子が発芽した状態だと思いますが,こんな種蒔き方法はないですねえ・・・。私の研究室の学生でもこんな種蒔きはしません。(学生の皆さんゴメンなさい)

  

 壁際にレタスの生長が判るような展示がしてありました。何か元気がないなあ・・と思い,根を見たら,全ての根の先端が褐変していました。植物は根の先端部分が生長点となっていて,養分吸収の重要な役割を担う器官を作っているのですが,これでは先々の生長は期待できません。

 

 この施設は「都会での農業体験と研修を目的とした施設」ということであり,「農業をまったく知らない方,ビジネスとしてやってみたい方に,新しい技術を用いた農業を体験してもらい,農業への理解と興味を深めてもらう」ことを目的としているとのことです。
 しかし,ここで習得した技術は恐らくまったく農業には役に立たないのではないでしょうか。技術指導をされておられる方がみえるとは思いますが,あまりにも一般の人向けの展示施設になっており,農業とは言えないと思います。テレビなどでも大きく報道された施設でしたので,期待を持って見学したのですが,ガッカリして帰りました。
 ここで研修した方が身に付くものは,農業ではなく,見学された方々への接客態度でしょうか・・。

 ただ,最後になりましたが,感心したのは2003年から「農業インターンプロジェクト」を実施しており,農業に興味のある方や農業をビジネスとして実践したい方を対象に,秋田県での農業研修プログラムを行っていることです。昨年のプログラムには100名を超える方々からエントリーがあったとのことで,12名の研修生が半年間,秋田県の大潟村で農業研修を受講したそうです。
 この研修プログラムについては,是非とも将来も継続していただきたいと思います。