上田林業(株)
【堆肥生産】
(滋賀県高島郡朽木村)
2002年7月18日に滋賀県高島郡朽木村の上田林業(株)を訪問しました。
上田林業(株)の朽木村は琵琶湖の西岸山地にあり、周囲は山に囲まれた環境豊かな地域です。会社設立当初は、林業の周年雇用対策としてバーク堆肥製造を行ってきましたが、林業の不振に伴って優良なバークが入手できなくなり、現在では、日本競馬会(JRA)栗東トレーニングセンターの敷きバークを原料として使用したバーク堆肥を製造しています。
上田林業(株)では、これまで公共工事(のり面吹き付け工事)やガーデニングブームなどから堆肥の需要が高まって来たことを受けて、公共工事用の堆肥の出荷やホームセンター・ガーデンセンター向けの園芸培土を製造出荷してきました。
園芸培土としてバーク堆肥を使用する場合の基本的な考え方として、「廃棄物処理としての堆肥生産を行っている限りは良質な堆肥を製造することはできない。商品としての堆肥生産を考えることが重要である。」という上田正社長の堆肥製造に関する心構えに感銘しました。上田社長いわく、「緑化吹き付け事業が堆肥製造の技術低下を招いた」との指摘に対して、私自身その通りだと感じています。
上田林業(株)のこれからの堆肥製造産業における展望として、有機栽培を中心とした園芸生産部門に主力をおいた堆肥生産を行っていきたいとの意向です。その場合には、必ずしも完熟堆肥だけが重要ではなく、中熟堆肥の需要も高まると考えられます。すなわち、2〜3カ月の作型では完熟堆肥は有効であるが、1年の作型などのように長期栽培では、長期間肥効が持続するような中熟の堆肥も需要が高まると考えています。
いずれにしても、専業農家に対して出荷する堆肥は『商品としての堆肥製造』が重要で、熟度の判定方法の確立が今後の課題とのことです。
岐阜大学農学部園芸植物生産学研究室では、上田林業(株)のバーク堆肥を用いて、堆肥の熟度判定指標の開発研究を行っています。
栗東トレーニングセンターより毎日40tの敷きバークを搬入し、堆肥の切り返しは、2〜3週間毎に大型シャベルローダーで行います。堆肥の山は、下の写真では小さく見えますが、高さは5m以上あり、毎日、堆肥の山のどこかで切り返し作業が行われています。
栗東トレーニングセンターの敷きバークだけでは窒素が不足するので、これにオカラ(豆腐製造残査)などを10%混入して堆肥化しています。下の写真の左は「混入されているオカラ」と右の写真は「試行的に混入している生薬製造残査(日本新薬(株)からのシロメガシの抽出残査)」です。
近い将来の構想として、『堆肥を供給した野菜生産農家が漬け物加工工場に出荷し、その際に発生する野菜残査や漬け物加工工場で発生する糠などの廃棄物を堆肥添加物として利用する』といった循環型の堆肥生産システムを構築したいとのことでした。
製造されたバーク堆肥の30%が生産農家用に出荷され、50%が一般向け園芸培土として出荷されます。生産農家向けや造園用の堆肥は「くつきバーク」の名前で出荷されていきます。
一般家庭用の園芸培土は、品質管理のため一時的にピットに貯蔵混合され、自動パッケージの機械で袋詰めされます。
上田林業(株)で生産される一般家庭向け園芸培土は20種類あり、この他にホームセンター専用ブランドも8種類あるとのことです。下の写真はその一部で、
上田林業(株)の堆肥製造工場は安曇川の河畔に位置するため、堆肥製造過程で発生する汚水処理が重要な課題となっています。上田林業(株)では堆肥製造ヤードの地下部に汚水回収設備を備えており、汚水の処理を行っています。
上田社長の将来構想として、この汚水を有機液肥として販売できないかと考えておられるようです。
堆肥の使用効果を実証するために、工場脇に野菜生産圃場とガーデンがありました。野菜圃場ではトマトが栽培されており、4年間の連作しても土壌病害が発生しておらず、堆肥の連用混入効果を見ることができます。また、ガーデンでは様々な宿根草が生育していました。
オマケですが、訪問した日が7月中旬であったため、堆肥の山の隅では大量のカブトムシが孵化していました。