ホールスラスタはイオンエンジンと同じく、ヘッドにより推進剤を電離し、イオンを電場によって排出することで推力を得る電気推進機である。イオンエンジンと同様に中和器によりイオンビームを中和するが、イオンエンジンとは異なりホールスラスタでは電離も加速も「加速チャネル」と呼ばれるヘッド内の同じ場所で行われることで高い推力密度を得ることができる。
これらの特徴を生かして人工衛星の軌道維持だけでなく、探査機のメインエンジンや軌道間遷移ミッションにも適用が期待されている。日本の技術試験衛星9号機(ETS-9)では軌道間遷移ミッションを含めたエンジンをすべてホールスラスタで行う「オール電化」の試みが計画されている。
このようなクラスタシステムでは、ヘッドから排出されるプルーム間の干渉による作動や性能への影響が予想される。そこで研究室では、この干渉による影響を評価し最適化することで、単体よりも優れたシステムとなるように研究開発を進めている。具体的には2基ヘッドと1基の中和器からなるSBSシステムを開発し評価を進めている。
SBSシステムには2倍の流量を必要とするため、より大型で大規模な真空排気装置を必要とする。そこで、単体作動試験及び予備試験は研究室の所有するスペースチェンバー内で実施し、SNSシステムの定量試験はJAXA宇宙科学研究所のスペースサイエンスチェンバーで実験を行っている。
SBSシステムにおけるプルーム干渉効果の物理の導出を通じた現象の理解を目的に粒子法を用いたプルーム解析を進めている。
通常ホールスラスタで採用されているCircular形状よりも強いプルーム干渉効果を得る目的でRacetrack形状のヘッド開発を行っている。Racetrack形状のホールスラスタは過去にBusek社がマグネチックレイヤスラスタを開発しているが、スラスタとしてのアノードレイヤは初めての挑戦となる。2020年度のJAXA宇宙科学研究所の実験において初めてのSBS作動を達成している。