本研究は公益財団法人JKAの「2021年度 機械振興補助事業(2021M-193)」により,実施しました。
現在の航空機の多くは、圧縮機によって流入空気を圧縮するターボジェットエンジンを搭載しています。しかし、飛行Mach数が3を超えると流入空気自体が圧縮されるため、
それ以上の空気の圧縮ができません。このため、極超音速航行時にはターボジェットエンジンを用いることは困難です。
そこで、極超音速航空機用のエンジンとしてスクラムジェットエンジンが注目されています。スクラムジェットエンジンの機構はとても単純で、エンジン入り口から吸入した超音速流が狭くなる流路を通過することで、気流が圧縮され高温・高圧の状態になり、そこに燃料を噴射して燃焼することで、
推力を得ます。超音速で稼働する燃焼器には、燃料の燃焼器内への広がり方、燃焼されるまでの時間が推進効率に大きく影響するため、それらを詳細に予測した設計にすることが重要です。
スクラムジェットエンジンは、Mach 5以上の極超音速で飛行する際に効率よく作動し、実用化されると現在およそ10時間の飛行時間を要する東京-ロサンゼルス間の航空を2時間に短縮できると予測されています。
燃料を超音速流の力によって細かく分断され燃焼する、噴霧燃焼といわれる現象は刹那的であるため、
スクラムジェットエンジンの燃料として、反応性の高い水素が用いられていました。水素は、従来の燃料と比べて単位質量当たりのエネルギが大きいため、
航空機の軽量化を望むことが出来、飛行に必要なエネルギが小さく済むことも利点の一つとして挙げられます。
しかし現在は、単位体積当たりのエネルギが大きいこと、
安価であることに着目し、従来のジェット機に使用されている常温で液体状態の灯油系燃料で作動するスクラムジェットエンジンの研究が行われています。
図3 航空機のエンジン内部の微粒化現象の模式図
図4 広域カメラによる単一液滴が微細液滴になる様子
航行中のエンジン内部では、液体燃料が高速気流によって微細な粒子に分解されます。 これが微粒化といわれる現象で、燃料液滴の表面積が広がります。この表面積の大きさが蒸発性能、 ひいては燃料効率につながります。当研究室では、気流との相互作用によって液体が微粒化される過程を解明することを目指しています。
高速流を発生させる装置として、衝撃波管を用いています。液滴と高速流の干渉による液滴の変形・微粒化挙動を明確に捉えるためには、カメラの画角を狭くして高解像度で捉える必要があります。 そこで、図5に示したような実験装置を製作し、衝撃波管の隔膜にレーザーを照射し、作動するレーザー破膜法を開発しました。 膜の破膜挙動を正面および斜め(図6)から撮影した結果を図8に示します. 図9はレーザー破膜法による,垂直衝撃波に形成過程を示しています. レーザーによる破膜時間の再現性は非常に高くいため,衝撃波発生のタイミングを高精度で制御することができます. そのため,狭い画角内において確実に液滴と衝撃波を干渉させることに成功しました。
図8 レーザーによる破膜の様子(左:膜の斜めからの撮影、 図9 レーザーによる破膜での衝撃波発生の様子
右:膜の正面からの撮影)
(1)において開発した衝撃波管を用いて、高速流と液滴の干渉および高速流と液柱の干渉の実験を行いました。 図10は衝撃波によって崩壊・微粒化された液柱を示しています。 噴射口付近において液柱は崩壊し、その後、微細液滴へと微粒化されます。 また、図12,13は高速流によって変形・微粒化された単一液滴を示しています。 高速流によって液滴は扁平化されます。 さらに、扁平化された液滴の周囲から液滴が微粒化されることが確認されます。 このような液滴周囲における微粒化によって微細液滴が形成されます。
図10 衝撃波による液柱の崩壊・微粒化
図11 カメラ二台を用いた撮影
図12 衝撃波による液滴の変形・微粒化
図13 衝撃波による液滴の変形・微粒化
図12,13のような液滴微粒化の実験を何回も行い、画像の濃淡を表す量を平均化することで、図14のような平均値分布が得られます。 平均値分布を用いることで、元のデータ(図12,13)だけでは取得できないような液滴の変形挙動や、液滴が微粒化することで形成される噴霧の広がりを評価することを目指しています。
図14 液滴微粒化の平均値分布
Level-set法とGhost Fluid法からなるインハウスコード(詳しくはこちらの「解析手法の開発」の「気液二相流解析手法の研究」をご覧ください)を用いて、 液滴と衝撃波の干渉の数値解析を行いました。 図15は解析結果の密度勾配分布、図16は解析結果の圧力分布をそれぞれ示しています。 衝撃波の後方には高速な流れがあるのですが、その流れの中で液滴は変形します。 上流側の界面の波打ちのような詳細な界面変形を捉えることができています。
図15 液滴と衝撃波の干渉の数値解析結果の密度勾配分布
図16 液滴と衝撃波の干渉の数値解析結果の圧力分布