超高圧水素の漏洩拡散
東京で開催された水素閣僚会議(第1回:2018年,第2回:2019年,第3回:2020年)において,水素エネルギーの社会実装に向けた挑戦的目標が掲げられました。水素は,将来的な需要の拡大が見込まれていますが,可燃濃度範囲が広い,最小着火エネルギーが小さいといった特徴を有するため,安全に取り扱うための適正な知識と,爆発事故を防止する安全対策が求められています。
本研究は以下の補助を受けて実施しました。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業
「水素利用技術研究開発事業/燃料電池自動車及び水素供給インフラの国内規制適正化,国際基準調和・国際標準化に関する研究開発/水素ステーションの設置・運用等における規制の適正化に関する研究開発」(2014~2017年度)
トヨタモビリティ基金 水素社会構築に向けた革新研究助成(2018~2020年度)
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(2018~2019年度)
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究B(2020~2022年度)
■ 高圧水素設備の保安距離 ■
水素ステーション等の高圧水素ガス貯蔵設備の安全対策として,保安距離の確保または保安距離確保と同等以上の代替措置が義務づけられています。
保安距離とは,継手部の隙間等から高圧水素が漏えいした際に安全を確保できる距離のことです(図1)。国内における高圧水素ガス貯蔵設備の保安距離は,φ0.2mmの円孔から噴出する水素の到達距離によって規定されています。国内の82MPa水素ステーションの保安距離は8m(ドイツ VdTÜV 514の2倍以上)もあり,海外の水素ステーションと比較して安全性の高い規則となっています。
82MPa水素ステーションのディスペンサー‐公道間距離
■ 高圧水素噴流中における強制着火 ■
実験概要
大学の研究室において,82MPaもの高圧水素を取り扱うことは安全上,困難です。私たちは,年に1回程度,日本自動車研究所(JARI)の耐爆火災試験設備を使用し,82MPaで貯蔵される高圧水素を噴出させる実験を実施しております。
下の図はJARIの実験ドーム内に設置した実験装置の写真です。制御室から遠隔で水素を噴出し,着火させます。条件によっては12mもの大きな火炎が観測され,離れた制御室にまで大きな爆発音が聞こえます。迫力のある実験です。
JARI耐爆火災試験設備内の様子
実験装置概略図
JARI制御室からモニターした実験設備
実験結果
82MPaの高圧水素ジェットをシャドウグラフ法で撮影しました。シャドウグラフ法は,測定対象の後方から平行光を入射し,密度変化による光の屈折を影として撮影する方法です。直接撮影では見られない高圧水素噴流の乱流構造や、ピンホールノズル近傍から周囲へと伝播する音波を確認することができます。
水素噴流中で放電すると火炎が形成されます。静止均一予混合気中で点火すると球状に火炎が成長しますが,噴流拡散場で着火すると火炎は下流(右側)と上流(左側)に拡がり,ジェット状の火炎になります。
高圧水素噴流 ジェット火炎
■ 多孔板に衝突する水素噴流 ■
実験概要
水素ステーション等の高圧水素ガス貯蔵設備において,下図(A)に示される漏えい水素の広域拡散を防止し,敷地の有効利用と安全性の向上を同時に達成する方法として“保安距離確保と同等以上の代替措置”が必要とされています。これまでに,多くの研究者らによって,下図(B)のように障壁設置による水素濃度拡散領域の縮小化が検討されてきました。しかし,このような障壁を設置することにより障壁上流に水素が滞留するため,可燃濃度(4~75%)体積が増大し,漏洩口近傍における爆発リスクが著しく上昇します。そこで本研究では,下図(C)に示されるような多孔板を設置し,水素の遠方到達と可燃濃度体積の縮小を同時に達成することを目指しています。
多孔板に衝突する高圧水素噴流の挙動を可視化するため,水素噴流にオイルミストを混入し,シート状のしたレーザーを照射して散乱光を高速度カメラで撮影しました。下図は実験装置の概略です。光学ミラーにより,多孔板の面に垂直にレーザーシートを入射し,表面と裏面の流動挙動を別々に撮影しました。
高圧水素噴流の多孔板衝突実験概要
流動挙動可視化実験
下の動画は,孔のない板に衝突する水素噴流(左)と多孔板に衝突する水素噴流(右)の流動挙動です。縦に並べた3台の高速度カメラにより,噴流が板に衝突した後に板に沿って拡がる様子が確認できます。多孔板に衝突した噴流の一部は孔を通過して板の裏側(下流側)へと流出します。その後,浮力によって上方へと拡散します。
孔のない板に衝突する水素噴流 多孔板に衝突する水素噴流
火炎熱影響領域測定実験
多孔板に衝突する火炎を常速度カメラとサーモグラフィーで撮影しました。板がない場合には水平方向において遠方まで火炎が到達しますが,多孔板を設置した場合には火炎の到達距離は短くなります。すなわち,多孔板を設置することにより,火炎の熱影響を受ける(火傷に至る)危険領域を狭めることができることが明らかになりました。
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