ある持病

 ある程度の年になると、1つや2つの持病を持っていると言われます。私の場合は、もうはっきりと持病と呼んでいいと思いますが、所謂「ぎっくり腰」やそれに近い腰痛なんですね。去年も同じような時期に比較的軽いのをやりましたが、ここ数年ほど、ひどい「ぎっくり腰」には出会ってなくて、少々油断があったのかもしれません。先日(いまから3週間ほど前)やってしまいました。やったといっても、今回のはあまりいつ起こったか、という特定がしにくいのですが、朝起きたら「なっていた」というものでした。ま、こいつは世間では「くしゃみをしても起こる」と言われていますから(幸いそれは経験は無い)、寝返りを打ったとたんになっても、不思議ではないですが。

 普段の生活では、無意識に防御体制が身についているので、酷いことになる姿勢はまずはとらないはずなのですが、寝ている時ではどうしようもない。そのため、今回のは結構大変で、痛みがほぼ消えるのに2週間ほどかかってしまいました。一番えらかったのは、「やって」から4日目にあった授業の時でした(この時初めて足の薬指が攣ってくるという経験をしました)。他にも重要な会議や研究会などもあって、姿勢を変えるときの腰をかばいながらの動作は、他の方には少し滑稽に映ったでしょうな。研究会の時に、ある先生には見破られて憐れみの言葉を掛けられたときには、笑ってごまかすしかありませんでした。もっともこの時には、8割がた直りかけていましたから、笑えたのですけどね。


 まあ、こんな自分の腰痛のことを話しても他人には面白くもなんとも無いでしょうが、実は2週間ほど前(まだ腰痛が治っていなかったとき)、ある新聞に作家の五木寛之氏がなんと御自分も腰痛が持病であり、最近また起こったことを、コラム(みみずくの夜メール)に書いておられました。それを読んで、作家が自分の病気のことを書くとこんなにも面白く書けるものか、と感動を覚えましたので、ちょっと書いてみようかなと思った次第。腰痛の経験の無い人には、その五木氏の文章は面白く感じたのかどうかは分かりませんが、経験者にはたぶん分かると思う。6月というのは腰痛持ちにはようつうい(要注意)の月かもしれませんな。なぜかは知らないけど…。


 五木氏の場合、数十年の腰痛との付き合いだと書かれていましたが、私の場合もほぼ30になります。これだけ長いと、それなりに色々書ける事がある。最初にぎっくり腰をやったのは、私が大学院生の博士後期過程の1年目(D1)の時。実験している時、重いバケツ(牛心筋のホモジェネートの上清が入っていた)を持ち上げたとたん、それは突然「やってきました」。激痛が起こり動けなくなりました。先生に自分のアパートまでつれて帰ってもらったまでは良かったのですが、そのあと一人で生活するのがまた大変。一番は、共同トイレでの「作業」の時。しゃがむタイプだったから、痛みで冷や汗をかきながら一大作業をこなした記憶が蘇って来ます。

 それから30年近く、途中軽いのも含めると年に1,2回は起こっていたように思いますが、それでも3,4年ほとんど起こらなかった時もある。10年ほど前にかなり酷いぎっくり腰をやったときは、流石に医師に治療をお願いしましたが、そのときは始めてMRIを経験し、ヘルニア部を目で確認することができ、ブロックという麻酔治療を行ったりしました。治療らしい治療を受けたのはその時だけで、あとは結局安静にして、自然治癒を待つしかないので、体に聞きながら筋肉の使い方、背骨の形を意識して、過ごしていました。今回も同じです。痛みがなくなった今は、意識して腹筋や背筋、腕の筋肉を鍛えるトレーニングや、ベランダに特別に設えた鉄パイプを使ったぶら下がりなどを少しすつ行っています。これは、ただ体重を減らすだけじゃだめなんですよ。

 考えてみると、このようなトレーニングは、夏から冬にかけて意識的にしていたのですが、春先から梅雨時は忘れがちになったようです。だから体への意識が希薄になり、その警報として腰に来たのかと。そんな反省を、実は毎年しているわけですが。。。


 五木氏の場合、腰痛になると四つん這いになって歩くのだそうですが、そもそも人類が2足歩行を始めて腰に負担が来る姿勢をとるようになった結果、体のバランスがちょっとくずれたとき(ネットワークの中の)ハブのような部位に障害が発生しやすくなったのが、腰痛やぎっくり腰の根本原因だと、思っています。無理な姿勢をとる骨格系を、筋肉が支えることになるわけですが、その筋肉が弱ってきたり、体重のバランスが変化してきた時など、腰椎のジョイント部に過負荷がかかり、結合がずれたりヘルニアになったりするのでしょう。だから、足腰の筋肉、腹筋、背筋、それと腕の筋肉の鍛錬が欠かせない。というのは、分かっちゃいるけど、ってやつですね。だけど、そんな努力をしなくても腰痛になりにくい人もいるわけで、遺伝的に決まっている体型というものがそうさせているのでしょうが、腰痛持ちになった体型を持つ自分としては、「腰対策」も今後の人生設計の要の一つ(腰は体の要と書く)になるのでしょうな。しゃーないな。



 ということで、体のバランス、のことが出てきましたが、世の中というか、世界や日本の政治経済や組織体のバランスもだいぶ揺らいでいるところが一杯出てきているようですな。年金、プロ野球、学会センターなどもそうですかね。問題が起こっている直接のところを「骨格」とすると、そこだけを見てもいい解決は無いのですよ。実はそこと繋がりのある、その周辺の「筋肉部分」を見直し鍛えなおして、連携して解決するのが本筋なのでしょう。これは、世の中の「腰痛対策」。

 これも分かっちゃいるけど、、、じゃあ困りますな。


 (2004.07.04)