四年前とは違うところ

 2 月はいつもの如く、学期末のテスト週間、博士公聴会、修士論文発表会、卒論発表会、前期入試監督、など慌ただしい日々を過ごすことになりました。今回は、いつも指導し てきた院生学生の数より多く、普通は五~六人ぐらいですが、今回は九人居りました。それに加えて、学会誌の編集というデスクワークが加わり、かなりの仕事量に なりました。しかし、仕事内容ではそれなりに充実したもので、今後の発展を期待させるものも有りました。まあ、それは横においておき、2月末には大体仕事も済んで、バンクーバーでの冬季オリンピックを楽しむことができました。

 四年前も、ミラノの冬季オリンピックがありまして、女子フィギュアスケート荒川静香の劇的な金メダル、それも唯一のメダル、で幕を閉じたという印象の強いものでした。以前のこのメモで も書き残していますが、そこでは、なぜ荒川選手は金メダルをとれたか、ということをその曲目との関係で考えてみました。
 今回は、期待通り、女子フィギュア では浅田真央選手はメダルをとり、安藤選手、鈴木選手も入賞を果たし、男子フィギュアでも高橋選手の銅メダル、他の2選手も入賞、とそれほど期待を裏切ら ない活躍がありましたから、トリノの時とは気持ちの持ち様もだいぶ違います。
 しかし、今回は誰が女子フィギュアスケートで金メダルをとるか、と いうのが一番の関心だったと思いますから、キム・ヨナ選手の文字通り、「圧勝」には呆気にとられた、というのが正直な反応でした。ヨナ選手の完璧なスケー ティングはもちろん賞賛に値するものでしょうが、浅田選手がもし完璧にスケーティングして3アクセルを2回飛んだとしても金メダルはとれないくらいの高得 点が、ヨナ選手に与えられていた、という話を聞くと、ん?出来レースだったのか?という疑問が芽生えました。速さや距離などといった物理的パラメータで競 う競技は単純でいいのですが、フィギュアスケートのように、美しさや表現力といった点数化しにくいものの要素がかなりを占める競技では、審査委員の持つ印 象というのが大事になるはずでしょう。以前のミラノの時は、荒川選手が選んだ曲目、オペラ・ツーランドットの「誰も寝てはならぬ」の曲のもつ印象とスケーティング のマッチングが重要だったのでないか、と想像しましたが、今回はどうだったのでしょう?
 ヨナ選手のフリーの演技では、ガーシュインのピアノの「ヘ長調の協奏曲(Concerto in F)」が使われました。これは、ヨナ選手のスケーティングと良くマッチし、実にプラスに働いていたと感じました。調べてみると、トリノの時の荒川選手の選んだ「誰も寝てはならぬ」の曲では、金管楽器を使うときはホルンがヘ長調を奏でます(Horn in F)。このヘ長調というのは、何か、美しさや優雅さといった女子スケーティングを評価する大事な要素にとってプラスに働く音調のような気がしてなりません。それに対して、浅田選手の選んだフリーの曲、ラフマニノフの「鐘(Op.3-2)」は、嬰ハ短調で す。色んな方が評論しているように、この叙情的、そして荘厳さを印象付ける「モスクワの鐘」をイメージし、帝政ロシアの圧制から解放された民衆の心を表現している(浅田選手のコスチュームは血を表す赤と厳かさを表す黒でしたが)と云わ れるこの曲を、日本人形のような可愛らしい浅田選手のスケーティングにマッチさせるのは、常識的にも非常にリスクが大きいと思われていました。ロシアのプ ルシェンコ選手が使うならば別でしょうけど・・・。
 難度の高いジャンプとマッチング難度の高い曲目を採用した19歳の浅田選手は、現在の審査委 員集団の空気を読まずに、出せる力を充分引き出せずに、銀に甘んじてしまった、ということでしょうか。そして、これはだいぶ前から分かっていた、はずでしょう。でもそれを分かっていても、それであってもその困難さを敢えて選択したとしたら、それは若い浅田選手の勇気といっても良いのかもしれません。フィギュアス ケートであってもスポーツですから、ハラハラドキドキ感のない競技はつまらないですからね。真央ちゃんのその勇気を今回は讃えたいと思いますが、次のオリ ンピックでは是非、金メダルが取れる戦略を練って欲しいと思います。今回上手くいかなかったことを、誰か一人のせいにするというのは私は好きではありませんし、タラソワコーチだ けがその責任を負うものでもないと思います。浅田選手本人とそのサポートチーム(コーチを含む)全体で責任をもって、前進して行って欲しいと思います。



  話は違いますが、四年前には、トヨタは、もうすぐ売上高で世界一のGM社を抜いて世界一になるのでないか、と云われるくらい、飛ぶ鳥落とす勢いを持った世 界一の企業であるとの認識をもっていました。それが、たった四年経った現在はどうでしょうか?08~09年の世界的不況に続いて、アメリカでのブレーキシ ステム問題による多くのリコールと訴訟が起こり、豊田社長がアメリカの公聴会などで批判される、という最悪の事態が続いています。色んなやりとりを見る と、どうもトヨタには「電子スロットルシステム」に対する過信があるのではないか、という印象が強いですね。ようやく「BOS(ブレーキ・オーバーライド・システム)」を搭載することに決めた、というニュースが2月17日にありましたが、このような重要な機能を今頃載せることに決めた、というのは、電子システムへの過信としか思えません。
  今2月28日には、チリ地震津波が日本にも押し寄せてきて居り、大津波の警戒も出てきて、テレビ番組は津波情報で占拠されていますが、50年前の大きな被 害をもたらしたチリ地震津波のことを思い出します。小学校の頃ですが、東北地方にいたので、結構恐怖心があったことを覚えています。
 このような 経済的なツナミが、今トヨタを襲ってきています。日本のもの作り企業の王者、トヨタがこの大津波をどのように乗り切ることができるのか、ジャストインタイ ム・カンバン・カイゼン方式がどこまで通用するのか、見ものです。というより、是非頑張ってほしい、と思いますし、他のたくさんの大企業も我が事として努 力していって欲しいと思います。

(2010.02.28)