投票方式あるいはカード読み取り式集計方式について


 アメリカ大統領選挙の投票結果が大変興味あることになっていますね。いや、別にポリティックスうんぬんというよりも、フロリダ州の一部の郡での穴あけ方式による投票が、間違い投票の元になったとかで訴える人もでてきているという事態に、う〜ん、これもアメリカかな、と雑記を書きたくなった次第。

 この投票用紙、テレビなどのニュース情報から見ると、対応する候補者の名前の横(矢印がついている)にある縦一列の穴にパンチアウトさせて、指示するようです。そして、その用紙は、映像で見ると、束ねて手でつかんでいる様子から、大昔(といっても30年くらい前)学生もIBMのメインフレームコンピューターなどで使っていたあのパンチカードのように見えたのですが、同じ大きさなんでしょうかねぇ?

 確かに、ブッシュ候補の次にゴア候補が書いてあるので(つまり上から2番目に)、別のページのブキャナン候補に対応する穴がその両者の間に割って入っているというのは、よく見ないとゴアに入れるつもりで2番目に穴をあけてしまうという間違いの元になるかもしれないなぁ、と感じましたね(米国民主党の肩を持つわけではありませんが)。選挙担当者は、矢印があるので問題ない、というようなことを言っていると新聞にでていましたが、選挙担当者の技術レベルで考えたのではいけないし、不注意で間違えてしまうことは十分あり得るとは思いましたね。

 そういう間違えやすい並べ方をしたのも問題だったかもしれませんが、それにしても、まだ、というか、今時パンチカード式の投票をする、というのは、なぜなんでしょうか?このパンチカード方式は、ハーマン・ホレリスが19世紀末ごろに国勢調査を機械的に集計分類するために開発して、RecordingMachine社を興しそれが後にIBM社に引き継がれていったという歴史があって、1970年代頃まで調査集計分類活動に活躍していたわけですが、そういう方式が今でも大統領選挙に使われていたのですね。まさか、読みとり用の機械はそんな古いのは使っていないのでしょうが、穴のあいたカードを機械的に(光学的に)カウントしていくときに、パリティチェック用の穴を付けるとか読みとりエラーをなくす工夫がしてあるようなものには見えなかったですが、どうなんでしょうかね。ですから、0.1%ぐらいの読みとりエラーが起こっても不思議じゃないんじゃないでしょうか、この方式じゃ。

 フロリダ州では、票差が0.5%以内の時は、リカウントすべし、という法律がある、というのを新聞で読みましたが、今回の票数の再調査で、ブッシュ、ゴア両者で増えた票が確か2500ぐらいあったように思いました。これは、単純な機械的読み間違いだけのせいではないと思いますので、もしかするとこの機械的読み間違い率は0.05%以内かもしれません。(両者の投票総数を582万票として、間違い率0.05%とすると約3000票は間違える可能性があるように思います;勝手な想像) ま、読みとり機械の性能は30年前よりは向上しているんでしょうけど。。。それにしてもある郡では2万票近くが白票としてはじかれたとか。開けた穴が小さいとそういうことにもなるでしょうし、州法律で「疑義があるときは手で(人間の目で?)再集計作業をすること」となっているらしいですが、大事な1票だけに当然のことでしょう。(米国共和党は機械での読み取りのほうが手作業による読み取りより正確だ、と主張しているようですが、、、そんなことないと思いますよ、この場合は。)

 これまでこの「穴あけ」方式でずーっと選挙が行われていたとすると、いつも2000票ぐらいの誤差はあったものと想像しますが、これまではこんな僅差にはならなかったので問題にはならなかったのかも知れません。う〜ん、これはかなり深刻な政治的な問題に発展するかも…(って、私が悩むことではないんですが)。

 IT革命を提唱していたゴアが、この古めかしい投票方式で(メインフレームの名残を連想させるIBM80カードのようなものが使われているようなので)損をしたとなると、なんという皮肉でしょうか! しかし、こういう古いものと新しいものとがモザイクのように入り交じっているのがいかにもアメリカらしい、という気はしているのです。

 それにしても、最終結果と将来の投票方式の議論と変化については興味津々です。

 それから、このパンチカードの方式の後継としてあのマークシート方式も位置づけられると思います(活躍する分野は違いますが)。もちろん、マークシートでの鉛筆での塗りつぶしは穴あけとは違い、(修正は可能であっても)読みとりを間違える確率はずっと大きくなるはずです。色の濃さとか塗る面積とか、消しゴムのごみとか、誤差を引き起こす要因が大きくなりますので。

 岐阜大学の全学共通教育の受講申し込みはマークシート方式のカードで行っていますが、結構はじかれているカードが多く、読みとりエラーになったカード一覧が張り出してありましたけど、かなり多かったですね。

 この受講者程度の人数ならば、エラーのカードの持ち主を呼び出して確認することは可能ですから、それほど問題にはならないと思いますが、選挙となるととんでもないですね。特に、パンチカード方式だと、エラーを出した人はほとんど特定できません。手書きならば、字体からあるいは個人の特定が不可能ではないとは思いますが、穴あけではほとんど不可能なはずです。さらに、間違えて2つ穴をあけたのでも、どちらの穴が望んだものか、区別はつかないはずです。

 投票方式から、講義の受講申し込みカードの読み取りエラーまで連想してしまいましたが、将来のこれらの発展した様式はどんなものであるべきか、考えたらおもしろいかもしれませんね。もちろんWeb上で手軽に、などということは昔に考えたことはありましたが、そういう実験的なことではなく、実際投票所で実用になる方式を考えないとだめですね。それもあまりお金をかけずに最高のセキュリティを持ったもの、しかもちゃんと字が書けない人にも可能で、その場で修正もできるが「投票後」は手を入れることができないように、という条件がついてます(さらに全部終了したら、投票用の媒体は再生が可能であるべき)。

 バイオ・インフォーマティックスならぬ「ポリティコ・インフォーマティックス」という投票方式も含めた情報研究領域が成立するか?! #誰か本気でやってくれませんか!

2000.11.13

補足1. 14日の記事では、再集計で全体の1%ぐらいのサンプルを機械読み取りと手作業を比較したら、4795票中19票分変化があったとして機械的読み取り誤差は無視できないと判断されたようです。これからすると、19/4795で約0.4%の誤差、ということになります。私の予想より意外と大きいようですね。州の法律で票の差が0.5%以内の場合は再集計すること、というのがあるわけですが、この「0.5%」という数値の根拠が理解できそうです。しかし、そうすると、この州の選挙関係者はこのパンチカードによる読み取り方式には0.5%以下の誤差が出てくる場合があるよ、というのを既に知っていたのかもしれません。これではゴアが怒るのも無理はないでしょうね。

補足2. 投票方式に関するWebサイトいくつか(さすが、やっぱり考えてますよ!)

http://www.fairvote.org/administration/votetech.htm

http://www.oualline.com/col/vote.html

http://www.computergarage.org/Garage/j-hist.shtml#History

補足3.16日の中日新聞には「接戦で敗北した次の選挙は雪辱できる」という大統領選挙の「ジンクス」のことが書かれていました。そのまえに、こんな誤差の多い投票方式をなんとかしたほうが……。