賞と神無月

  この10月は,ノーベル賞の話題で始まりハリケーンの話題で閉まる感じです。また国民栄誉賞とか文化勲章の話題もあり,神無月というくらいで全国の神様が 出雲に集まり(何を話し合うかは知らないが,誰を褒めようか誰を罰しようか,なんてかな?)各地から神様が居なくなるという月と言われていますから,御上から頂く賞の話が10月に集まるのも分かる気がしますし,色んな長い 会議がいつもより多い(学期の始まりでもあり)のも特徴かも。
 というわけで,ノーベル医学生理学賞が山中伸弥教授(50歳)とガードン博士(79歳)に贈 られることになりました。山中先生のノーベル賞はいつかそのうち出るだろう,というのは多くの人が考えていたことだと思いますが,論文発表からたった6年 で受賞というのは,かなり早すぎる気もします。 しかし,ガードン博士にとっては50年という歳月の重みのある賞だったわけで,こちらは遅すぎといっても いいくらいでしょう。(今を逃すともうお年だから受賞できなくなる可能性もあるので,今というタイミングだったのかもしれない)
 これだけ歳月の 差のある技術に対して同じ賞を与える,というところに今回の賞の意味があるのでしょう。つまり,どちらも同じくらいの「発生学の革命」であり細胞の「初期 化」の方法を見つけた,ということでの受賞であったわけです。ガードン博士の技術は核移植という発生学における「古典的技術」であるわけですが,それと同 じ並びで山中教授の技術が評価されたということは,よりソフィスティケートされている(たった4個の遺伝子の導入だけでやっちゃった)といっても同じよう な「古典的技術」の範疇にあるという評価なのではないかな,と思います。
  でもまだ臨床応用という本当にできて欲しいことはまだできていないし,どのようなメカニズムでiPS細胞という初期化がおこるのかという基本的なところは まだほとんど分かっていないし,だからこそ癌化への心配などもあるし,打率3割以上でちゃんと正常な,かつフレッシュな臓器・組織がつくれるのか,という ことすらまだわかっていない。わからないことだらけだと思います。これらのことが基礎からしっかり理解されるようになって初めて「再生医療」ができるよう になった,と言えるのではないでしょうか。その時こそ,細胞初期化の「現代的技術」の確立の時であり,本格的な再生医療の始まりなのだと思います。
  それが,これからの日本でできるのか,はたまた動もすると外国にもっていかれてしまうのか。研究の裾野の広がりということを考えると,不安に感じざるを得ません。た とえ数十億円を京大だけに集中投資してもその不安は解消しません。若い人たちの研究力の広がりと支援がお粗末である,という国家的規模の問題が解決しない 限り,お金だけでは解決できないことだと思います。

(2012.10.31)