想定外の成り行き


  2月はいつものように卒論、修論の行事がたてこんで、慌ただしく時が過ぎていきましたが、2月後半は暖かい日が多く、気がついたら3月を過ぎていました。 3月になって第1週目は真冬に戻ったような寒さが続いています。学生の就職戦線も極寒が続いています。卒論の発表前ぎりぎりに内定をもらった学生もいたの で、まだあと1ヶ月近く、卒業日ぎりぎりまで戦いは続くでしょうし、24年卒向けの就活は今が盛りで、学生の気持ちを思うと、ご苦労さん、という言葉しか 掛けることが出来ません。
 最近、「就活エリートの迷走」 (豊田義博・著、ちくま新書)を読んでみましたが、これこそ想定外で気が滅入るというか、早々と超優良企業に内定をもらって余裕をこいている「就活エリー ト」たちも、実は大変な問題を持っているんだ、ということが理解できます。それも、最近は使いものにならない就活エリートが多い、すぐ辞める、という企業 側の評価が多い(企業の人事も人を見る目が無い?)、というのですから、大学でのいわゆる「キャリア教育」はこのままでいいのか、と思い知らされます。と いうのは、大学のキャリア教育の主要なところは(全部ではないが)、いわば就活エリートを育てることを目指した(いい企業に入れるための)教育なのですか ら。

 2月は、25日に入試の前期日程試験が行われました。いつものように過ぎていく入試かと思われましたが、なんと、その後メディアを騒がせることになる「入試問題投稿事件」 が発生していたのでした。まだ全容が解明されていないので、解明されてからこの雑記を書こうかと思っていたので遅くなったのですが、4日時点でまだ謎が 残っています。これは、京大の方も言っていましたが、入試の根幹を揺るがす事態である、ということで、今後の入試のやり方、試験のやり方に大きな影響を与 えそうな、想定外の成り行きになりました。
 しかし、想定外のことと書きましたが、本当に想定外だったのか?もう何年も前から学生が携帯電話を普 通に使うようになってからは、携帯電話はカンニングに十分使われ得る、ということは想定していて、そのために試験が始まる前に必ず「携帯電話の電源を切っ てかばんにしまうように」ということは何度も何度も言っていたはずです。そのやり方で、この10年ぐらいはよかったのです。でも、その場合、想定していた のは、携帯に電話が掛かってきたとき音が鳴ると周りに迷惑になるから、とか、誰かに電話して答えを聞く、などということが起こらないように、ということ だったと思います。
 今の受験生は、もう小学校に入ったころから、携帯電話をもち、使いこなしてきた人たちが大部分のはずです。もちろん中には例 外的に携帯電話を持たされなかった、という人もいたとは思いますが、大部分は携帯電話のキー操作に慣れている人たちなはずですし、ブラインドタッチはお手 の物のはずです。「≦」などという数学で使う記号や文字列の5,6行を、5,6分の間に入力ができるものか、と慣れていない私のようなオヤジは思ってしま うのですが、使い込んでいるほどどんな複雑な記号でも辞書のどの辺に出てくるかは分かってくるのが、今の携帯ですから、ブラインドでも打てるものなんだと 思います。そういう事実を受け入れるしか、ないのでしょう。
 このような状態を想定した場合、今のような「携帯の電源を切ってかばんにしまえ」と 言っただけで、大丈夫なのか?ということです。それが駄目だったというのが、今回明らかにされたことです。試験監督がまわっても見破れなかったのですか ら。携帯を出して机の上に置かせて電源が切られているのを確かめてからやる、という大学も出ていると聞きます。でも、これも駄目でしょう。ダミーの携帯を もっていられたらしょうがないですから。また、今後、劇場につけてあるような電波を妨害して携帯での通信ができないようにする、という案が出てきています が、たくさん小さな部屋に分かれている大学の教室のようなところでやるのは、コストの面でどうかと思います。一部屋に何百万円も掛けられないでしょう。
 恐らく今もっとも現実的なのは(まだ今のところメディアでは触れられていませんが)、電波の発信源をアンテナ付き電波検知器で探して捉える、ということです。市販されているのは、携帯電話感受装置と いうもので、一台20万円ぐらいであるようです。アンテナ込みで、音が出るようにしたものを一台あればかばんに入れて、10mぐらいを検知できる感度にし てまず教室を特定し、そのあと、感度を落として1mぐらいで感知できるようにして試験場内をイヤホンをしながら周回することで、場所(人)を特定してい く、というやり方です。(工学部であれば基板さえ買っておけば電気電子の人に頼めば音が出る機械など簡単な工作で出来るでしょう)
 あと、試験場 を暖かくしておいて、コートを着させないことも必要です。大きなコートを着ていると、ポケットに携帯を忍ばせておくことができるので、手をそのポケットに 突っ込んでブラインドタッチが出来る状態を作らせないためです。どうしてもコートが必要、ということになったら、コートの中に携帯があるかどうかを試験監 督が確認する必要があります。机の上や、机の下で隠して携帯を操作する場合は、前に立っている試験監督には一番目立ちますから、壁際の隅にいたって余程の ことがない限りそれはないでしょう。
・・・と書いたところで、ニュース(4日15時)を見たら、「携帯を左手で股の間に隠し持ち、文字を入力したり画面を確認したりしていた・・」と出ていました。(ソースはAsahi.com)  ≧ム≦ なんだ、こりゃ、という感じですね。もしそれが本当なら、普通の試験監督ならば一番気付きやすい格好ですよ。それを見逃したとしたら、犯人が悪 いだけじゃなく、その場にいた試験監督(当然特定できるでしょう)も職務怠慢ということになります。京大では、京大新聞の人が知恵袋に気付いて問題になっ たということですが、他の私立大学では、気づきもしなかったのですから、監督の怠慢もいいとこです。これでは、マジシャンのような片手ブラインド入力の超 絶技巧などを想定しなくても、だれでもできちゃう、ということです。大学の責任も問われそうですね、これでは。。。(気づいてもらえなかったこの受験生も不運というべきか?)

 まあ、これから色んなことを想定して新しい対策をたてることになるでしょうが、あまり学生を拘束する時間が長くなってはだめ、だとか幾つかの制限事項は出てくるでしょうから、コストとの兼ね合いも考えて、決めていく必要はあるでしょう。
  それにしても、この犯人はエポックメイキングなことをしでかしてくれたものです。大学の定期試験などの試験の時カンニングがあった場合は、その学生のその 学期の全単位が没収される、という規定はありますが、今回の入試の時のカンニングは、偽計業務妨害ということで警察沙汰になったわけですが、どの程度の罰 が下されるかも見守る必要がありそうです。



 3月に入って、ガソリン代がかなり値上がっていますが、想定外に中東とくにリビアは内戦状態 になっています。ニュージーランドでは、想定外の大地震で建物が沢山崩壊して、日本人28人も絶望的らしい。ただ、生還した日本人男性は、瓦礫の下にい て、携帯でメールを送り続けて場所が特定されて助かった、ということですから、携帯は生きる上で大きな力になったわけです。携帯は、使い方を間違えると上 記のような犯罪にもなってしまう、というありふれた教訓でした。

(2011.03.04)