新しい学科での新年度

   2013年度から、新入生は新学科「化学・生命工学科」の所属となりま す。2年生以上はまだ従来の学科である「生命工学科」で今までのカリキュラムが走っていますが、1年生向けのカリキュラム体制はかなり大きく変わっています。今ま での3学科が一緒になって、一つの学科になったのですが、分野がかなり異なるところもあるので2つのコースを作って、「物質化学コース」と「生命化学コース」です が、1年生はどちらかのコースに属することになります。因みに今年の生命化学コースの1年生の数は67名ですから、今までの生命工学科の学生数60名より1割ほど 増えただけです。それでも学科の体制(レジーム)が大きく変わると教育の内容も大きく変わることになります。
 教育内容的には新学科では、より「化学」に重みが掛かり「生命」系の専門的な内容は減ります。より専門的な内容は大学院で、という方向性になります。そのため、 私が担当していた生命工学科2年生の「生物数学」や3年生の「医用工学」の授業がなくなり、代わって「概論科目」が置かれます。また、3年生向けの「代謝生理学」 は「細胞生物学」とごく一般的な名前の授業に変わる予定です。特に「生物数学」の授業は、今年で終わりで、来年からは工学基礎科目の「代数学」や「統計学」に読み 替えがなされますので、いつも以上に力が入っています。いつも2回めに「オイラーの公式」の話をするのですが、生命の話題と関連させて説明する際、「オイラーの公式は、指数関数と周期関数という2つの異質な関数が虚数i が導入されることで=で結ばれる。これは、生命において、指数関数が細胞増殖に対応し、周期関数が細胞分化(細胞周期)に対応し、それがイコールで繋がるためには i (愛)が必要である、愛(i)は異質なものをつなぐことができる!」というような「演説」をしました。例年以上にスムースに話ができたので 多くの学生の笑いを取ることができたようです。もう、こういう話を学生にすることはできなくなりました。。。(笑)
 
 新年度での体制の大きな変化は、なにも学科だけの話ではありません。世の中は、政治が変わり、アベノミクスなどという政治経済体制に大きくシフトしたような印象 で、いろんな政府予算関連の説明会でもアベノミクスの第三の矢「成長戦略」などということが言われるようになりました。その成長戦略の重要な柱になるのが「医療」で、それも医療機器の開発とiPS細胞などの再生医療だ、というのです。この ような戦略をたてることで、問題の多かった医療分野が本当にいい方向に変わってくれるのであれば、それはそれで大変結構なのですが、問題は時間でしょう。いつやる か?今でしょう!などと冗談を言っても始まりませんが、この医療分野での戦略は今から始めても実質化するには2年や3年でできるような話でもないことはみんな知っ ていることです。そんな数年で簡単にできるようなことなら何も苦労はしない。日本版NIHを作るという話も、随分昔にもあった記憶がありますし、このような制度を 一本化する話はよくやられるのですが、現在の文科省、経産省、厚労省などにまたがる事案が根本から一本化するという話が簡単にまとまるとも思えません。こういう根 本からの体制の変化には当然大学の研究教育体制の変化も伴っていかなくてはいけないはずですが、その気配は微塵も見られません。この工学部の生命系の学科の改変に すら、医療系(医用工学)を重視するというような動きはまったくありません。(自分はあと3年で退く予定なので自分から引っ張っていこうという気はありません が・・・) 医療機器(診断機器と治療機器)の開発を叫んでもそれを担う人材の開発が圧倒的に不足し遅れているわけだし、ベンチャー企業もあまり育っていませんか ら、成長戦略の柱と呼ぶには10年早い気がします。でも今やらなきゃ、さらに2周遅れ、3周遅れになるのも明白ですから、諦める必要もないし、動き出すことに吝か ではありません。

 まあ、新年度ですから、一歩一歩ですね。
 


(2013.4.30)