老舗と新興

 またもや食品業界での偽装事件についての報道が盛んです。
鶏肉の名古屋コーチンや比内地鶏、牛肉のミートホープ、お菓子の白い恋人、それから何と言っても赤福餅ですね。
以前、中国からの輸入食品で危険なものが結構ある、という報道を聞き、日本のは大丈夫だろうな、と疑っていた矢先の、立て続けの偽装発覚。それも、いわゆ る老舗での偽装ですから、がっかりの極み。ういろうは、ながもちは、、、大丈夫だろうな、って余計な心配をしてしまいます。
 老舗、というのはその信用度において別格なので老舗としてやってこれているわけで、地元の人たちもこ れなら大丈夫と信頼してお土産にして人に紹介するわけですね。老舗というのは、ネットワーク理論からすると、時間をかけて信頼のネットワークを形成してい るために、ちょっと人気がなくなったくらいでは簡単に落ち込むことはないのですが、それは「信頼」という錦の御旗があったればこそ。その信頼がなくなれば、いわゆるハブが 崩壊するわけですから、老舗の持っている販売網も崩壊します。
 赤福に対して、地元では「おふく(御福)」という同じような 食べ物があります。間違って買ってしまうくらいよく似ています。今はこちらの方が人気のようですが、これはいわば新興の餅屋さん(といっても1883年創業だから124年は経っているので普通 で 言ったら老舗だが、赤福の方はちょうど創業300年ですからね)。もし「おふく」がちゃんと信頼のおけることをやっていて、しっかりと美味しければ、老舗 の持って いたネットワークを一挙に獲得して、赤福の代わりを務めることができることになるでしょう。ただ、地元の銀行も赤福支援を示唆しているので、赤福の会社が 管理をしっかりとできるようになったら、また回復は速いのかもしれませんが。
 それにしても、赤福さんの餡子とお餅、好きなお土産品の一つでしたが、食べられなくなると思うと、無性に食べたくなる食べ物の一つです。自分の家では、 もらったら一部を食べてあとは冷凍にして保存していました。ええ、解凍すればしっかりと美味しく食べることができますよ。赤福の謳い文句は、生ものででき たて、ということ。これだけ有名になって、多くの駅にも置いているくらいの単品売上日本一(104億円)の食べ物が「できたて」を謳う、と いうような販売方法に、もともと無理があるんじゃ ないでしょうか。
 作ってすぐに冷凍にして、必要に応じて出荷する、ということを前提に宣伝していたら、売れ残りの問題も少なくなっていただろうし、味だって美味しいまま だし、ということを公表して最初からやっていたら、こんな表示偽装の問題はなかったでしょう。老舗は老舗のまま、信頼を保てていたはずです。それが「返品 率を下げ ろ」という至上命令に応えるためもあって、うその表示をしてしまうことになるのは、生ものを扱う会社だけに理由がないわけではない。単品104億円の売り 上げがあるのに、 「その日限りの販売」なんて、土台無理のある話。

 話は食品から飛びますが、最近のゲーム機の売り上げの話では、Nintendoが一人勝ち状態だとか。Nintendo=任天堂は、ゲーム機の老舗ですが、以前はSONYのパワステが引っ張ってきていました。この分野で は、SONYは、新興会社。この分野では、言ってみれば、本来は老舗 も新興もなくて、面白いゲーム機を作れるかどうか、で決まるはずですが、Nintendoは、最近の様子を見ると新興のような感じで、単なるゲーム分野を 超えて教育分野も市場に加えてしまい、市場の拡大に成功してしまいま した。それに、頭だけを使わせていた従来のゲームの内容に、身体全体を使わせる内容を導入することに成功しました。これらをみると、本来は新興企業がチャ レンジングに行うべきことを、老舗がやってしまった、ということで、かなり一人勝ちの様相を呈している状況のようです。

 老舗も、新興のようにチャレンジしていかないと、時代に沿って同じように続けては いけない、という教訓。水は流れなくなると、腐るということ(特に経営の面で)。



 10月は、いろんなイベントがあった月でした。学術集会での講演、ミニ国際シンポジュウムのお手伝い、企業研究所での講演、などが仕事の延長でありまし たが、私 的なことでは娘の結納のイベント。結納のやり方は、地方によって、場所によってやり方がかなり違い、あらかじめ老舗的なやり方を想定して行っても、やる会 場であるレストラン(老舗のレストラン)の仕切り方と少し違ったりして、結局一回きりの昔からある古式ゆかしいイベントですが、いろんなやり方があるもの です。ここには、新興の入り込む余地はないのでしょうか?
 思うに、結納というのは、昔からのきまった儀式への信頼があって初 めて成り立っていますので、「決まり切ったことを行う」こと自体に意味があるのです ね。ですから、新興なやり方は入り込む余地はないのでしょう。

 先日、ある企業研究所を見学させてもらったとき、人間個体のメタボリズムを測定するための部屋(ヒューマンメタボリックチャンバー)を日本で三番目に設 置したところなのですが、しっかりと人間で代謝を計測していこうという意気込みに感心しました。この企業も、「あぶら」関連商品分野では立派な老舗なので すが、商品を売るだけではなくて、それが人間の代謝をどう変えているのかをしっかりと計測しよう、というのは、ある意味チャレンジングなことで、大学や研 究機関がやるべきことであってもあえて企業がそれをやる、というのは新興の精神に溢れている、と感じたものです。
 しっかりと人間を見つめて大事にしていく、という態度は企業にとって基本的に大事なことでしょう。それがあれば、老舗であっても、新興であっても、お客 さんを大事にしているという信頼が確保できて、決してコケることはない、と思いますし、そうあってほしいと思います。

(追記:10月30日、こんどは「おふく(御福)」にも偽装疑惑が出て立ち入り検査が入ったと報道がありました。さらに、あのくりきんとんの川上屋のある 販売店での偽装も。でるわでるわ、、、。
この領域のビジネスモデル自体を改革しないといけませんな、これじゃ。)
 

(2007.10.28)