シフトする時代に

  2月は前半は寒い日が多かった気がしますが、後半になると急に暖かさを感じることが多くなりました。そんななか、2月期の恒例行事である学位関係のイベン トが多くありました。1週目には博士学位論文の公聴会があり、2週目には修論の発表会があり、3週目には卒業研究発表会がありました。私の関係する皆さんは無 事に終わって、4 週目最後の週はいくらかリラックスできる週になって学会誌の編集作業に集中できました(といっても大学入試の前期試験がありましたが)。
  また、就職活動の開始が例年よりもだいぶ遅くなって(公式には)、卒研発表会が終わったあたりからようやく動き出す学生が増えてきた感じがします。ただ、 実際はインターンシップに名を借りた実質的な就活は既に始まっていて、この2月は大詰めを迎えているらしく、3月に入ったら一斉に大手は内定を出すだろう、な どという噂も聞こえてきます。今まで以上に短期決戦ですので、例年になくしっかり準備して一気呵成に動いたものが勝利するようになっているかもしれません。し かし、中小企業ではなかなか良い学生が来てくれないという事態もまだあるらしいので、学生はすぐ諦めずに、しっかりと活動していってほしいと思います。
 この就活の後ろ倒しなどもそうですが、今までの世の中の仕組みがぐぐーっと変化し、シフトしている感じを最近は強く感じます。だいぶ以前からその変化の流れ はあったのですが、最近になって角度で言うと30度ぐらいシフトする様が見えるようになったという感覚です。このシフトする時代の感覚を理解してもらうには、 次のキーワードを挙げた方が良いかもしれません。順不同で思いつくまま:「原油価格暴落、アラブの春の終焉、ISISの蠢き、シェール革命、EU-ギリシア危 機、中国バブル、格差拡大、21世紀の資本=トマ・ピケティ、地方消滅、団塊退職、第4次産業革命(機械化(1次)-電動化(2次)-自動化(3次)-そしてスマートネットワーク化(4次))、戦後70年 ・・・」   
 これらの中で、ピケティ現象が顕著に起きており、先進各国政府の経済方 針にまで影響を及ぼしているというのが印象的ですが、考えてみれば、この格差拡大の必然性の話は、15年ほど前にアルバート・バラバシによって唱えられた「複 雑系理論=ネットワーク理論」によって予見されていました。グローバル化した資本主義世界ばかりでなく、生物の世界などでも、ある意味、「人口のわずか2%の 富める者が総資産の20%を獲得する」という現象に直面する、ということです。言い方を変えれば、「世界の98%は貧しきものであり、我々である。」というこ とになります。これが普通では「自然な」ことなのであって、すべてがネットワーク化された世界では必然的に起こることなのだ、という話です。その「あとの」話 はあまりでてきませんが、結局生物を見ればわかるように、すべての生物は個体としては必ず死にます。それでいて新しい生物を生み出したものだけが生物系として (システムとして)生き延びていきます。
 だから、今の1個の生物のようなこの世界の仕組みが瓦解する前に、新しいシステムを作ることができたものだけが生き延びていく、という、そういう段階にシフ トしている、と感じています。ピケティさんのいう「累進課税の徹底」が新しいシステムを作るきっかけになるのかどうか、はまだ分かりませんが、それをやれる国 (地方)が生き延びれる候補なのかもしれません。

 話は少しシフトしますが、1年ほど前にアメリカの心臓病学会等がコレステロールについてのガイドラインを出しそこでは従来の血中コレステロール特にLDLコ レステロール値の上限をだいぶ緩和して、普通の人であまり心臓病のリスクの高くない人はLDL-C値はあまり気にする必要は無い、ということになりました。そ して、先日の2月20日頃にアメリカの食生活のガイドラインの改訂方針案 が出されて、コレステロールの食べ過ぎを気 にする必要はない、とされるようになりました。このようなコレステロールをめぐる方針の変更(まさにシフト)は、過去の15年ぐらいの論争 の賜物でありますが、この方針のシフトは、これからじわりと医療界、食品産業界に影響を及ぼし、早くこの方針の変更(シフト)に適応できたものが次の創薬や食 品業界を引っ張ることができるようになるでしょう。いまだに「卵を食べると血中コレステロールが上がるのでダメ」という考えを持っている人や、コレステロール がゼロを謳った食用油を販売したがる業界の人たちも、早めに「コレステロール悪玉論」からおサラバしてして頂かないと、世の中の大きなシフトに付いていけなく なります。これらは、小さな変化ですが、食生活の基本的なところに関係することなので、大きな意識のシフトに繋がるはずです。

 学生さんの就活も、このような大きなシフトという流れに目を光らせ、様々な情報を貪欲に取り入れ自分自身の頭でよく吟味して判断を下してほしいと思います。 どんな企業もこのシフトから自由になることはできませんから。

(2015.02.27)