奢れる平家久しからず

  この2月も寒い日が続き、春らしいと思わせる日はほんの数日しかありませんでした。今日29日は「余りの日」。連日の会議や行事に挟まれた、エアポケット のような日。昨日までに色んな提出文書をほぼ仕上げて、学会誌の編集の仕事もほぼ完了し印刷所に送信して、一段落したので、この余りの日はやり残していた 実験をします。昨日はご退官の先生の最終講義もあり、4年後の自分を少し重ねて思いを馳せました。やり残したこと多く、去っていくんだろうな、たぶん。と いってもまだ一仕事できそうな時間はありますので、意欲のある学生さんと一緒に、次の人生の準備をしながら、負けずに頑張って行こうと思います。
  修論審査会と卒論審査会では、院生も学生も皆よく頑張って素晴らしい発表をしてくれました。また次に繋げていきたいと思います。ただ、一件、他の研究室の 学生ですが、審査会も終わっていたのに最後になって4年の前期に履修しておくべき必修単位を取れていなかったことがわかり、本人も気づかずにきてしまっ た、という学生本人の不注意のみならずシステムとしての盲点が見えてきてしまった、という「事件」がありました。教務としても残念なことでしたが、規則を 曲げることは出来ず、就職内定の取り消し→再就職活動に行かざるを得なくなりました。ちょっとした不注意が取り返しのつかないことになってしまう、という ことなわけですが、その学生さんにとってはとっても不幸ではありますが、考えようによってはいつも学生に言っている「艱難汝を玉にす」ということなるとい いと思います。若い時の苦労は買ってでもせよ、とも謂います。より深い人生のヒトコマになってくれれば、と祈らざるを得ません。
 この件に関して は、大学側のメンツと会社側のメンツがぶつかって学生一人が痛い目にあうことになったのですが、このような事情では国立大学法人としても私立大学のやり方 を参考にしたほうが良いように思います。つまり、再試とか、追試とか、特別試験とか、卒業間際に非常手段で単位をもらおうとする場合は「金を払え」という ことです。国立大学のメンツもあり金で解決するという方法は取りたがらないものですが、その点、私立大学のほうがクールにやっていると思います。

  さて、NHKの大河ドラマで平家物語の「平清盛」が始まっています。どこかの市長さんが汚い画像だ、などといちゃもんをつけたことで話題になったドラマで すが、龍馬の時と同様に良い作りだと僕には思えます。その批評はさておき、主題は「奢れる平家久しからず」です。去年のあの3.11東日本大震災とフクシ マ原発事故からもうすぐ1年です。ここで見えてきたのは東電など電力業界の「奢れる平家」ぶりでした。国際的な経済環境の悪化にそのような自然災害も拍車をかけて、いままで日本経済を牽引してきた大手電機メーカーは軒並み大赤字に陥り、自動車業界もしかり、全体が死に体に陥ったように見えます。そこに来て、28日に今度は日の丸半導体メーカーのエルピーダメモリが破産!というニュースが・・・。もう外資の傘下に入るしかないのか。
  以前はこんなにも強かった日本の半導体、電機、自動車が、次々と打ち負かされていくさまは、我々のこころの無意識の世界にも知らず知らずに影響を与えずに はおかないでしょう。特に若い学生諸君への影響はかなりあると思いますし、就職活動時の企業の選び方にも相当な影響を与えるでしょう。でもこの傾向はだい ぶ前から起こっていました。これじゃだめだ、と警告を発している人もたくさんいたと思います。そのような日本の産業界にもずーっと「奢れる平家」状態が続 いていたせいで、そのような警告には聞く耳を持たなかった、持てなかったのかも知れません。
 10数年前頃には、バイオ産業の興隆が期待されまし た。それは、バイオから、医薬医療産業の興隆へと繋がり、もっと豊かな産業がおこり日本を豊かにしてくれることを夢想していました。でもそうはならなかっ た。新しい産業が興る場合、違う別の産業の一部は無くなり新しいものに取って代わられるのが普通でしょう。しかし、そうではなく、別の産業は廃れつつあっ ても既得権とばかりにそれにしがみつき、新しいことへの投資も進まず、潰れるのを待つばかりになってしまった。そうしている内に、時間のかかる新しい産業 の芽はあまり開かず、そうこうしているうちに日本の産業全体が地盤沈下し新しいことが興る余裕さえなくなってきた、というのが現状ではないでしょうか。 ちょうど電力業界が原発というデッドエンドな産業にしがみつき、代替エネルギー産業には冷たくしてきた結果が、フクシマの現状に現れています(福島ではな く、もっと抽象化されたフクシマです)。
 しかしながら、暗い話ばかりではありません。大手の様々なメーカーは、新しい事業を模索しているのを 知っています。そういう時こそ、大学も一緒に苦労を共有したいと思います。それも自助努力で。お上に頼ってはだめでしょう。お上の方針で、過去うまくいっ た例はあまりありません。東北でこそ、その新しい産業が芽吹くのを期待したいと思います。

(2012.02.29)