実りの秋と不毛なる制度


 10月も終わりに近づくと、栗や柿など実りのを感じさせる食材を堪能できる季節にな りました。先日家の近くにできたお店で「栗釜飯」を頂きましたが、実 に美味。まもなく、富有柿を厭きるほど食べれるようになります。こういう、旬なものを適度に食することが、体に好いということは脳というよりは体で感じる ことができます。大昔、人々は実りの秋で体に栄養を蓄え、厳しい冬を乗り越えようとしていたわけで、その代謝的仕組みは我々人間にも残っていますので、そ の美味しさに惹かれるままに食が進みすぎると内臓脂肪が付き過ぎるようになるわけですね。これは生理現象です。でも、それはそれ以後ちゃんと身体を使えば(これが重要なことですが)、元に戻るようにはな るわけで、あまりBMIに対しての恐怖に駆られる必要はないはず。BMIと寿命とは、ほとんど相関関係はありませんから。こういう周期的変動の中にあるの ですから、自分の身体のリズムを知ることのほうが、1年の中のある一瞬での「健康診断データ」よりも、大事でしょう。

 こんな美味しい季節ですが、最近の「高校での必修科目の未履修問題」 が大々的に取り上げられ、不毛な教育制度の一端が国民みんなの眼に明らかになって、生徒にとっても教師にとっても美味しい季節を味わう余裕はなくなってい るようです。これは悲しい制度です。でも、これって、かなり前から公然の秘密のようになっていたと思いますが、なぜ今問題になってきたのか?
 地方の進学校は、高等学校自体が大学受験対策制度にどっぷりと浸かっていて、国の「余裕ある教育」制度の下でできた週 休2日制度によって、都市の進学校と競争すべく微に入り細に入りの受験科目の「受験技術教育」が、生徒のためといいながら、行われざるをえません。都市部の進学校 では、たぶん都市の進学塾や予備校が「受験技術教育」の役割を担っており、受験生にとってはお金はかかるが、高校は指導要領に則って「普通の」教育を行ってい れば良い、という役割分担がうまくいっているのでしょう。地方では、人間教育にとって必要な科目を密かに削ってまで、受験科目を教えないと都市部の進学校 と対抗できない、という制度になっていますから、ますます都市と地方との格差が大きくなるわけですよ。
 大学のほうだって、受験科目以外の学生の知識が劣っているのを危機に感じているので、受験科目を増やしたいと思っていても、増やすと受験生が減るという 予想があるので、あまり増やせないという状況があります。この不毛なる受験制度のせいで、今回の「未履修問題」は今後「罪のなすりあい」になってくるで しょう。不幸なことです、国全体にとっても。

 実りの秋とは反対に、教育業界にとっては、心身のやせ細る秋になっています。

 全体としてみれば、受験生が減っているので、大学受験に対しては全入に近い状況になっているにもかかわらず、この不毛なる制度が厳然としてある。センター試験は資格試験に変えよ、という案がありますが、僕もある程度賛成です。そこ では、高校教育でやっておかねばならない科目をすべて試験して、各 科目がある一定のレベルにあるものだけが大学を受験する資格があるとするものですが、それをやれば高校では必修科目は必ず一定レベルで教育 しなければならなくなるし、ごまかしはできない。大学は、資格試験をパスしたものから、独自の方法で選別すればいいわけですが、受験科目の設定は受験時期 や全体の流れを見ながら決めることになるので、一概には言えませんが、科目は増やす方向に圧力が出てくるでしょう。要は、大学に入ってからの学生の能力開 発(引き出し)が優れている大学が、より選ばれやすくなるということになればいいはずです。
 でももう、何十年と同じ議論の繰り返しですが、そろそろ生徒の数という基盤的要素が減っている状態に合わせて、有効な制度を確立する時期でしょうね。も う流れは変わっています。



 野球の流れも変わっているようです。いままで野球が弱かった北海道の高校野球も、雪国というハンディをものともせず、駒苫のようなところが出てきていま すし、ファイターズも札幌に本拠地を変えて良い人材を集めて、ドラゴンズを破って日本シリーズ優勝を飾りました。僕はドラを応援していましたが、こんなに 打てなきゃしゃーないか、と感じたシリーズでした。かつての王者のジャイアンツはBクラスへ後退して久しい。
 サッカーも、Jリーグでは、かつての王者の横浜Mや鹿島A、磐田Jも一位を維持するのは難しくなって、昔J2を経験したレッズやフロンターレ、トリニー タが目立っている、という流れに変わってきています。それはたゆまぬ努力があったから、というのは当然ですが、それは将来に備えて基盤をしっかりとして人 材を鍛えていくという努力です。
 これは、あたかも厳しい冬や翌年に備えて、旬な食材を食して身体の基盤を作ってい く秋、というイメージと重なります。なんでも、出来合いの制度にあぐらをかいてチャレンジ精神も欠けて、ごまかしながらやってくれば、足元をすくわれます。ギフの 裏金問題もそうでしょう。みごとに足元をすくわれました。
 大学もおちおちできませんぞ。

(2006.10.29)