協力の形

 10月から11月にかけて、あっという間に秋を駆け抜けて真冬に突入したような寒さになり、ここ岐阜市近郊の山々の紅葉も盛りを迎えているようです。昨年と同様にこの時期私たちが見に行くところとして、谷汲(たにぐみ)の地域があります。そこにある華厳寺や横蔵寺の紅葉はかなり素晴らしいものです。快晴の陽に照らされた黄色や赤、そして緑の葉っぱの織りなすハーモニーと鮮やかな青い秋空をバックに多彩な絵を描いて魅せて、ごった返す見物の人々の目を楽しませてくれました。この様々な色合いのハーモニーがあってこそ、紅葉が美しいと感じるのだと思いますが(紅葉の「クオリア」?)、これも様々な色と脳の視覚システムとの協力によって生み出されるわけですね。(と、ちょっと無理にでも主題と連結!)

 最近は、協力の形としてはいろいろあります。例えば、「産官学」あるいは「産学官」、主体が大学か県かによって呼び方は微妙に違いますが、新しい産業を興すのに「産官学」の3者が協力して当たれ、という流れが作られています。私たちは、どうもこのように3つの協力関係が好きですね。それ以外でも、学校での三者面談は、親と先生と生徒の3つの協力ということですし、3本の矢のたとえにあるように3者が協力して強くなる、ということが昔から言われてきていますし、大分のJリーグチームのように産官民(企業、県、市民)の協力体制を表に出しているものもあります(このチームのことに触れたくて主題を選んでいます、実は)。

 で、この大分のチーム、大分トリニータといいますが、4年目の正直でようやくJ1昇格を果たしJ2優勝を決めました。私は大分から離れてもう3年近くなりますが、昔のひいきのチームの快挙には素直に感動しました。あの「大分の悲劇」とか「舞鶴の悲劇」とか謂われている、あとちょっとのところでJ1昇格を逃した山形との試合、私も競技場で見ていましたので、結構胸に迫るものがありました。このチームの名前、以前は大分トリニティと謂っていました。このチームは、県知事が力を入れていくつかの企業の協力の下、県民サポーターと一緒に作ったので、三位一体を意味するトリニティという言葉をつかっていたようです。ただ、このトリニティは、アメリカの大学名などにも使われていると謂っても元々宗教用語ですから、サッカーチーム名にはちょっと合わないんじゃあないの、と思っていましたが、その後「トリニータ」とサッカーチームらしい(?)名前に変わりました。

 この三位一体という言葉も、宗教用語を離れて一般的にもよく使われますね。ある新聞では三「身」一体と間違えて書いていたものもありましたが、三位一体の三位の位は、「位各(ペルソナ)」の位、ということになっています。で、名前にこだわる私の性格上、ちょっと気になっている事があって、「産官民が三位一体となってがんばって、云々」というような表現が使われる事がよくありますが、これが「どこか変だぞ」という気を引き起こします。

 あまり宗教にこだわる性格ではないので、どうでも良いことのなのでしょうが、元々三位一体というのは、ある宗教で神を表現するときに「父と子と聖霊と」3つのペルソナで1つの神を表現する、ということになっていますから、別にこの3者が「協力して」1つの神になっているわけではないのです。いわば、この3者は1つの神の「属性」とも言えるわけで、分かち難くなっているのですね。つまり、例えて謂うと、蜜柑の属性として、オレンジ色の皮と丸い形と甘酸っぱい味と、というように表現できるようなものです。属性ですから、それぞれ切り離せないものなのですね。

 だから、一般的に使うには「産官民が三者一体となってがんばって、云々」であれば変とは思いませんが、三位一体と使われると、ちょっとなあ、と感じるわけです。といっても、トリニータの名前に不満を言っているわけではありません。ごく一般的な話として、です。もちろん、3者が切っても切れないような強く連携した関係になったときは、それらが一体化したものは「神」のような強いものになるのかも、ね(冗談)。しかし、大体はうまくいかなくなるケースが多いですけどね。ともかく、大分トリニータ、がんばれ!

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 ノーベル賞の「田中さん」現象という社会現象はまだ続いているようですね。考えてみると、ノーベル賞の3人枠というのも「3つ」にこだわった結果かもしれません。自然研究では、最低必要な事は、研究する主体としての研究者と自然の一部の対象と研究を推し進めるアイディアの3つ、と言えるかもしれません。これらは、もう、研究というものの属性といっても良いくらい、分かちがたくなっていると思います。

 研究といえば、自然科学の研究の面でも色々協力を頂いていた高円宮様が先日(11月21日)急逝されましたね。実は、高円宮様は先月10月下旬京都であった国際臨床化学会の来賓として出席され、そのとき挨拶で話された内容がかなり格調高く、私も拝聴して感銘を受けた事を覚えています。これは自然科学にかなり造詣の深い方だな、という感じを受けました。

 それにしても心室細動での突然死、とは・・・。マラソンなどで急性心筋梗塞で亡くなる例はよく聞きますが、その場合55才以降の方が多いのに、まだ47才ということで、救急の対応の仕方(救急隊員が来るまでの)は問題なかったのかなぁ、という感じを持ちました。昨年には阪大の畠中先生もこれで亡くなられましたし、この頃立て続けにマスコミで突然死の報道が起こったので気を惹かれます。
 その場合、生死の分かれ目は(特に脳は)発症してから3分ぐらいですから、倒れたらすぐ心臓マッサージをやらないとだめですし、これは発症前に全然自覚がない場合大変です。新聞などでも色々報道がありますが、ただ、どのように予防していったらいいのか、については、日頃から血圧や高脂血症などには注意を、というぐらいで、あまり最新の予防医学の知識は広められていないようです。実は、脂質栄養学的には、結構n-3系不飽和脂肪酸が不整脈や心室細動の防止効果があるという論文は多くあるのです。参考までに、これ と これ などをご参照ください。不整脈が運動に伴って起こるときは、多かれ少なかれ心臓組織の一部に「虚血」状態の発生が関係している事は明らかだと思いますが、虚血状態が発生しても心室細動など致死的な現象が起こりにくいような細胞の膜の状態にするのがある種の脂質だというわけです。つまり、栄養学的には不整脈や心室細動の予防も可能だという論文です。もうちょっと、脂質栄養学会でも啓蒙をした方が良いなぁ。

 心臓だって、体全体の状態や心臓そのものの細胞学的性質、それから酸素や栄養素や様々な生体成分の「3者の協力のもと」死ぬまで働き続けているのです。まさにこれらは分かちがたく、です。どれかのバランスが大きく崩れると心臓には大きなダメージが現れる、ことになります。

 高円宮様には心からご冥福をお祈りいたします。



 
 この秋は、サラマンカホールでのコンサートを4回堪能しました。この会場は、スペイン様式で造りも美しく、大変音の響きが素晴らしいですね。バイオリンコンチェルト、ギターとカタリーナのバイオリン、樫本大進のバイオリンとピアノ、ナカリャコフのフリューゲルホルンと弦楽四重奏、でしたが、どれも満足できる演奏でした。来年2月の小澤征爾さん指揮のコンサートは、さすがに人気があり、発売開始直後に完売となってしまってつけ込む隙がありませんでした。それで24日の演奏を聴きながらふと思ったのですが、音楽こそ、三位一体ではないのか、ということです。つまり、演奏家と楽器と曲想がその音楽の不可分の3つのペルソナです。このアイディア、我ながら悪くないと思っています。

(2002.11.24)