期 待と現実

 今年の6月は,昨年と同様30℃を越える日はさほど多くはなく梅雨で鬱陶しい雨の日もそれほど多くなくて,過ごしやすかったな,という印象です。また,7月 以降の忙しい日々の前の「嵐の前の静けさ」という感じで,いろんな「頭の仕込み」ができたような気がします。
  学生の就活も前半のほぼ終わりになっていますが,学部の4年生の方はまだまだ苦労しているようです。今年に入ってから世の中の景気回復への期待が大きく なっているので,企業の採用状況もだいぶ良い方向にいっているのではないか,と期待していましたが、修士の方はまだましのようですが、まだまだ現実は厳しいよ うです。

 4月初めから始まった 日銀の「金融の異次元緩和」というアベノミクスと何本かの矢が放たれて以降,世の中の期待が引き上げられて日経平均株価が急上昇し円安も進み,景気景気で世 間は踊っている印象でしたが,やっぱりというか,5月下旬になって株価も急降下し6月もずるずると下がってきて,6月下旬では4月初めの水準まで戻って来 た感じです。政治家や経済関係者の「期待の煽り」によって世界の投資 家の金が日本に集まってきたが,まもなく現実に気付きそのお金も日本からかなり逃げていき,元に戻ったということになります。こんなことでは企業は景気回 復の煽りに踊らされて給与を増やしたり採用を増やすなどということはしないだろうな,と納得してしまいます。現実のデータを見てみれば、株価の上昇は政権交代前から起こっ ていて、交代してからの株価上昇スピードが加速されたということもありませんから、政権交代の前からの世界的な景気回復の流れが日本を支えているだけだったの ではないか、という気がします。
 どうも昔のレーガノミックス(レーガン大統領のエコノミクス)から始まって、今のアベノミクスなどという「政権トップの名前+ECONOMICS」 という造語は、生命科学のゲノミクス(Gene+OMICS)やプロテオミクスのような「科学用語」と似ているので、何か人々に対して「確固としたエビデン ス」のような印象を与えているのかもしれません。そういうのが今の若者の支持を得ている背景にあるのではないか、という感じがしています。こういう期待や印象 が厳然とした現実によって将来崩壊していくのはあまり見たくありませんが、なるようになるしかありません。

 なんでも期待し過ぎはだめでしょうが,不確実であることは分かっていながら期待を煽るのはもっとタチが悪い。
  考えてみれば,科学と社会との関係にも一部そんなところがあるのかもしれません。新しい科学的事実がマスコミに取り上げられるとき,よく「これはこんな病 気を治すことができるようになるでしょう」とか「これで最大の謎が明かされるでしょう」などと書かれることが多いですが,これなどはまさに「期待の煽り」 ですからね。先月,吉田五郎氏のことをこの雑記で紹介しました。彼は実用化の大事さを訴えたわけですが,一方それは科学的発見を実用に持っていくことの困 難さをよく知っているからこそ,なわけで,メディアは簡単に実用になるかのような期待の 煽りはやってはいけませんね。(これはiPSのことを念頭に置いて います)といいながら,実用に持っていくためには先立つモノが結構必要ですから,そのためには投資してくれるところを惹きつけないといけないので,ある程 度期待をかけてもらえるような作文も必要になる,というのは悩ましいことです。
 結局ほどほどに,ということです。

(2013.06.30)