継続と転換と

  この3月は気候の変動が激しいですね。暑い日が続いたかと思えば、朝氷点下になるような日もあったり、桜が咲いたまま、雪を被ってしまった光景をテレビを 通して見ることもありました。29, 30日はかなり冷えて、夜には、満月の煌々とした凍えるような白さと、大学の駐車場に行くまでにある街灯に照らされた5分咲きの桜の花の淡い白さが、その美しさを競っていました。

 大学は、後期入試も終わり、25日の卒業式・学位授与式も終わると、いよいよ新年度に向けて新しい人達を迎え入れる準備にかかります。心 身ともに教室全体をリセットするわけですが、毎年何を継続して何を止め転換していくのか、頭を悩ませる時期でもあります。
  毎年のこの1年という周期で、大学でも継続と転換が起こります。考えてみれば、この2010年度は私にとっても暦が還って転換する年(還暦)でもありま す。岐阜に来て10年、仕事の内容も、残りの年数も考え、大学での私自身の研究と教育においても継続と転換が必要な区切りの年です。
 
  大学は、学生が社会に出て活動していくための手助け、基盤を作る支援をするところだと思っていますが、一昨年以来、不況などの影響で学生も社会に出ていく のがより大変になっています。実際は私たち教員はそのような就活をする学生には、情報提供などの基本的な支援するというのがほとんどで、企業と直接橋渡し になっているというのは率からすると非常に低く、大部分学生独自の努力に任せるしか、ありません。「就活のバカヤロウ」(光文社新書)というような本もで ていますが、多くの学生はその厳しさを実感していると思います。大学の方も学生の生活の支援を増やしていかないと、バイトと就活でほとんど大学に来れない 学生も増えているかも知れません。高校の授業料無償化のための予算も通り、子育てや高校までの教育にはある程度の充実は期待できるのかも知れませんが、そ のあと、大学に入り、大学で学び、大学から社会へ出ていくためには、多額の費用が必要になりますので、苦労が先送りになったに過ぎません。
 苦労して就活してやっと内定をもらって企業に就職したとしても、そのあと、数年以内にその企業をやめたり、転職したりする人も増えている、ということも聞きます。マッチングがうまくいっていない、ということでしょう。た とえ、大手企業に内定をもらって就職できたとしても、最近のように大手だからと言って安心できる企業はひとつもありません。学生の安定志向が強まり、大手 の企業への就職希望が増えているとも聞きますが、これも就活の苦労に拍車をかけるものです。企業の面接を担当された方の話を聞きますと、面接で採用という のはかなり不明な点が多く、判断が難しいと言う方もいます。
  こういう状況が続くと、これはもう、学生にとっても、採用する企業にとっても、もちろん大学にとっても、不幸としか言いようがありません。無駄の多い期間 ということになります。何か、受け入れる企業と、力量を持った学生を育成する大学と、学生本人と、この三者で有効な新しい仕組みを作る必要がある、と前々 から思っていましたが、じゃあどうすればいいのか、については悩ましいところです。企業はもっと海外へ目を向ける傾向も強まっていますし、産業界の流れを もっと学生に理解してもらい、大学の教員も理解できるように、三者が真剣に対面で議論し有効な手立てを作れるような、そんな仕組みです。

 新しい年度になると、色んなことが変わります。気になったのは、小学校の教科書の内容が二割~三割増えるらしい、ということや、一五年前の警察庁長官狙撃事件が時効になったこと、などで、他にも色んな課題が継続、あるいは転換していきます。緊張状態が続きます。
  小学校の教科内容が増えるのは結構ですが、これだけ増やそうとすると、土曜日も以前のように半ドンにして登校させるようにしないと、時間が足りなくなるよ うに思いますね。ついでに、大学も土曜日半ドンで授業や活動ができるようにした方が良いような気がします。日本の高度成長期(3~40年前)の頃のシステ ムに近づけるようにしないと、中国などにあっというまに抜かれます。それほど余裕はないのに、日本はまだ経済大国二番手と安住する気分があるなら、相対的 に低下の速度が加速することになります。
 大学評価で、運営費交付金の配分に手を加えることも、大きく報道されていました。教養教育の無い「大学院大学」と、普通の四年制大学を同じ土俵で比較する、というもどうか、と思いますが、相変わらず成果主義を教育に導入していくことへの疑問があります。

・・・ということで、とにかく、新しい緊張状態の中で変わるものは変わり、新年度に突入します。

 補 足ですが、最近学会活動の中で、脂質栄養学会がWebセミナーを始め、ホームページに公開しました。メタボ診断の矛盾にも関係することですが、最近数年間 の疫学的研究では、「コレステロールは悪くない」というデータがどんどん出ている、という成果が述べられています。フランスの研究者からの詳細なデータ評 価の話から、覗いてみて下さい。
 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsln/seminar/JSLN-Web-seminar2010.html#Lorgeril

(2010.03.31)