計算違い


 この3月という時期は、これまでの学年の卒業研究や論文発表の行事が終わり、4月から始まる新学期に向けて準備をしていく時期に当たります。そして、入 試の後期試験も行われて、何人合格者をだすか、という予想を求められるときもあります。
 今年はなぜか、いままでのようなのんびり感がなくて、結構忙しく過ごしています。色んな被験者を募って測定を行っているということもありますが、新しく 始まる連合創薬大学院の選考などがあったことも要因の一つにあるようです。学科では、新しい4年生の配属を決める行事もありまして、昨年と同じようにやろ うとしたら、ばらつきが大きく、計算違いというか、なぜか今年はすんなりとはいかずに若干のつまづきも見られました。どれくらいの学生数が来るかを予想す る、というのは結構難しいもので、人々 の気持ちは定式化できないものです。
 特に今年の後期入試では、岐阜大医学部の当初78倍という異常な数値が示すような集中現象がおこり、採点も大変でしょうが、合格者人数を決めるのも、大 いなる賭けでしょう。計算違い、というか判断を間違えると、期待値を10%以上も越える(減少する)ことになりかねません。

 このような身近な予想が外れること以外でも、社会的には、あれっ、と思うような計算違いも起こったようです。
気象庁の発表した第1回の桜の開花予想の日時が、一部の地域での予想 で間違いが起こったよう です
理由は調査中とのことですが、なんでも入力された温度情報が違っていたらしい、とのこと。
温度情報って、自動的に取り込まれるんじゃないの、と素朴な疑問を抱いているのですが、もしかしてアルバイト学生の手入力だったりして?こういう間違いは 普通は人間の判断ミスが起こすわけですが、計測器が変な温度を出力したとか?考えにくいですね。調査結果を待ちたいと思います。
 この桜の開花予想は、以前は特定の桜の木を定点測定して蕾の状態を把握した上で開花予想をしていたらしいのですが、最近は温度情報だけで「計算」するら しい。であれば、温度の数値がちょっと違ってくれば間違った予想をすることになります。いままでのように、実際の木の蕾を見ればそう間違うことはなかった でしょうに。

 最近、日本でも外国でも、航空機で着陸の際に車輪が出なかった、という事故が続けて起こっていますが、フェールセーフな計算をしてシステムを作っている あの航空機でさえ、思いがけないことが起こるものです。人の世界では、なおさらで、ごく当たり前に予想外のことが起こるものです。

 また、先に述べたように合格者人数を決めることに気を使うのは、以下のようなこともあるからです。
文科省は、国立大学法人で定数を越えた学生を在籍させているところには、運営費交付金をカットすると言っているようで、06年5月時点の在籍学生全体でみ ても、国立大87校365 学部のうち、定員の130%を上回る学部が8、120%以上は36に達した、と言われていて、私学から問題視されているのだそうです。私学では、医歯学部 が定員の104%、理工系学部などが107%、それ以外の学部は109%を超えると、学生数などによって金額が決まる「一般補助」がカットされることに なっているので、国立大学でもそれにならえ、ということのようです。工学部では合格者数を定足数の107%以下に抑えなさい、というのは結構厳しいという 気がします。定足数から減ったら減ったで、また「罰」が待っているし。こうなったら、合格者一人ひとりに電話ででも確認していってできるだけ確実な数値を 出すようにしないと、誤差を小さく維持するのは困難なんじゃないか。偶然性に期待するということになれば、必ずゆらぐものですから、相当巧妙な仕組みを作 らないと誤差範囲以内に収めていくのは大変です。
 と思っていたら、今度はその運営費交付金の配分の仕方を「大学の努力と成果に応じたものに」などということが、経済財政諮問会議で話されているという記 事が出てきました。科研費などと同様な配分方法に変えたら、またもや格差拡大になってしまいますよ。経済界のお偉方は少しはス ティグリッツ博士の警告に耳を傾けたらどうでしょうね。

ヒトの心の動きは、桜の開花予想より相当難しい、ということです。

(2007.03.19)