アップ&ダウンの五月

 4月はおおむね例年よりも寒い日が多かったのですが、この5月は、何かサインカーブのような、比較的規則的な、温暖と寒冷が週替わりでくるような月だったようです。証拠として、平年と比較した気温のデータをここに引用しておきます。こうしてみると、2月下旬〜3月上旬の異常な温かさは、4月中旬〜下旬の異常な寒冷さで相殺され、5月は結構明確な周期的な、アップダウンの明確な変動に戻ってきた、という印象でしょうか。

  政治の世界もそんな期待と幻滅との繰り返しのようです。沖縄基地問題は、まさに何十年と掛かっている懸案で困難なわけですが、政権が代わり、基地による沖縄 県の負担の軽減が実現するのか、という期待を最大限ふくらませてくれた政治家の約束は、ぎりぎりになって裏切られて期待が萎んでしまって、あぁやっぱり な、という幻滅に変わりつつあります。予見はされていましたが。。。
 このような時期に呼応するかのように、となりの半島情勢は戦争の危機という緊張状態が一挙に高まってきています。大学の方から回ってきたメールでも、文科省からの通知ということで「危機管理」が云われています。((一 部引用)>  最近の国際情勢を受け、本日(5月21日)の閣議(閣僚懇談会)において、万一の不測の事態に備えて国の重要施設に関する危機管理に万全を期すよう指示 がなされました。つきましては、所属職員等に対し、各種の安全確保対策や警戒警備活動の強化等について周知・徹底いただくとと もに、必要に応 じて、危機管理の体制を強化するための取組を行っていただくようお願いします。 文部科学省 高等教育局・・・) そんな事言われても、こんなところで何をすべきなのか、よく分かりませんが。この緊張の元になった魚雷事件ですが、大本営発表しかないので、これもよく分 かりませんが。我々下々にはよく分からなくとも、何か動くところでは動いているようだ、というのは直感的には分かります。

 それから、こ れも原因のよく分からない、宮崎県での牛や豚の口蹄疫の発生も、大問題になっています。口蹄疫ウイルスが、黄砂に乗ってやってきて宮崎県で感染が拡大し た、というような話もありますし、グローカルな問題でもあります。それにしても、ここ10年間では最大規模の感染だとか。畜産業にとっては、大きな問題が 発生したわけですが、この牛や豚の口蹄疫は、ヒトにはあまり感染の心配はないともいわれているようですが、種牛などの感染が疑われている牛たちへの対処の 仕方は尋常ではありません。こういう感染性の高い疫病に家畜が感染した場合の対処の仕方は、一応法律でも事細かに決められているようですが、それが「すべ て殺処分」、というのは素人目にそれが最善のやり方なのか、と疑問がわきだしています。
 そもそも、口蹄疫が発症した時の家畜は、治療によって家 畜を助けるというのではなく、あくまでもどんな貴重な種牛であっても、殺して燃やして埋めてしまうしか、方法がないというが解せないのです。獣医学的にそ れは正しいのか?確かに感染性がひどく高い口蹄疫の場合は、生かしているだけでウイルスが拡散していく確率が高くなるだろう、というのはわかります。で も、現在の技術であれば、P2かP3レベルの家畜用の牛20頭分ぐらいの隔離室を作るのはさほど困難ではないでしょう。種牛5頭分の小さな隔離室だってい いんです。貴重な種牛のことを思えば、厳重な隔離室を作る費用など、たかが知れているでしょう。それがあれば、貴重な種牛をそこに隔離し、ウイルスの拡散 をまず防いだ上で、それらの種牛の口蹄疫の治療を行う。そして、完全に治療できたあとで、種牛としての役割が果たせることが科学的に確認できたら、再度そ の役割を全うさせる。なぜこのような、まず治療する、という方針がでないのか、不思議です。
 このことにも関連しますが、最近たまたまジャレド・ダイヤモンド著の「銃・病原体・鉄〜一万三千年にわたる人類史の謎〜」(草 思社)という本を読んでいます。その中に、人類はいかに家畜を作ってきたか、ということが詳しく分析されています。家畜化できたものは、最初は人類はそれ らをペットとして飼い始めた、ペット化できたものだけが家畜化できた、とありました。ペットというのは、ほとんどヒトの家族と同じに扱います。だから、牛 や豚を家畜として飼っている現代の家畜農家の人達にとっても、それらの家畜は、意識としては家族の一員なのだと思います。それを、口内炎のようなウイルス 感染をしたからといって、否応なしに殺処分にする、というのはあまりに酷い。それが、人情でしょう。であれば、それに沿った現代獣医学の粋を集めた対処技 術・治療技術を確立するよう努力するのが、現代家畜農業のやるべき事なのではないでしょうか。
 BSEのときもそうでしたが、人間の身勝手な思惑で 牛に変なものを食べさせ、BSEになったらすべて殺し、また口蹄疫になったら治療の可能性を探らずにすぐ殺処分を目指す、そんな人間の身勝手が続けば、そ のうち、牛は人間に反乱して、もう家畜としては扱えなくなる可能性も将来、ないとは言えない気がします。

(2010.05.31)