今年の桜は散るのが早いようで、入学式のあたりでは(7日)この近所ではだいぶ 散っていました。ただ、山の方では12日あたりが満開のところもあり、12日(土曜日)に関市の寺 尾ケ原千本桜を初めて見に行ってきました。渋滞の車の中から、道の両脇に2000本の桜がトンネルのようになって、華やいだ空気を作り出し ていて、久しぶりにうきうきした気分になることができました。大体4月は新しい学生や社会人が街にあふれ、うきうきした気分をだしてくれるものですが、今年は ちょっと違うようです。
1月末に理研がまさに満開の桜のような「うきうきした気分」を作り出す演出をし ながら「画期的な科学の成果」を発表して、程なくしてその成果に疑問が出始め、大きな騒動になって既に3ヶ月以上が経ちましたが、この「疑惑の科学」騒動はま だ収まる気配はありません。この間のことは、最近では日 経サイエンス6月号にまとめられて読むことができます。さらに、理研側の調査委員会の委員長が、自身の論文に「画像切り貼り不正」があったという ことで辞任されましたし、山中教授自身にもデータねつ造の疑いがあって、元のデータが(10数年前なので)無くなっているなどでお詫びの記者会見を行うまでに なっています。さらに、文部科学大臣とアメリカ大統領補佐官とがSTAP問題で意見交換をおこなって「研究に疑義が出ないような体制をつくることが両国にとっ て重要だ」などということが話 し合われたということが報道されました。
こうなると、科学の問題というより政治問題化していると思わざるを得ない感じで す。また理研の方も弁護士を表に出して調査しているので、科学というより司法の世界で戦われていくのかもしれません。これはどこまでいくんだろう、と心配にな りますが、おそらくこの分野(バイオ関係)の研究者の家では、身内から「あなたは大丈夫?」と疑いの目を向けられる事態になっているところも増えているのでは ないでしょうか?
バイオ研究の信頼自体が大きく揺らいでいる今、論文作成や研究発表にあたって学 生に向かって言うべきことは、まずは「他の人に再現してもらえるように報告を書きなさい。」ということですね。再現・確認したいと思う研究者が現れたら、技術 的に同じレベルではない研究者でもちゃんと基本は再現できるような書き方を残しておかないと、成果を発表する意味がないわけで、そこが一番大事です。
この研究不正の事件は後を絶ちません。Wikipedia には、過去の事件がまとめられていますが、1909年から始まって、35件が表になっています。その中で、1981年に起こった「スペクター事 件」は、他にどこかで書いたかもしれませんが、印象深いもののひとつで、私がアメリカでポスドクの仕事をしていたときに起こった事件でした。分野が似ていたの で結構大きなショックが研究室全体を覆ったという記憶があります(その時にJBCには気をつけろ、という刷り込みがおこなわれました)。2004年ごろから日 本でも研究不正が起こっていることが多く報じられるようになりました(その最初は理研の裁判沙汰になった事件)。そして、その多くはゲル電気泳動像の切り貼り 改変捏造によるものでした。私も以前はゲル電気泳動自体はだいぶやりましたが、その再現性や定量性に対してだいぶ不信感をもっていたので、私が書く論文には電 気泳動図を入れることはほとんどありませんでした。いつもこんな技術は(簡単で普及した技術だけど)止めて、HPLCや質量分析法で比較したらいいのに、と 思っていたのですが、相変わらず一流の論文でもゲル電気泳動法での「バンドの比較」で分子量が違うことを示す実験が発表されています。そして、捏造もたくさん 行われてきたわけです。今なら、Natureにも気をつけろ、ですかね。
おそらく今後は、このようなゲル電気泳動法によるデータには、論文審査の段階で かなり注意が払われることになるでしょう。そのほかにも、論文の審査はかなり厳しくなることが予想されます。今回の理研の事件が出てきたこともあって、ますま す日本からの再生医学関連の論文発表が少なくなるかもしれません。自己規制も厳しくなるでしょうし。春なのに気が重い事件でした。