新しい環境と振り返りの長月
さるすべりの薄紅い花が公園を綺麗に彩る季節になりました。この9月も結構30度を超える日も多く、なかなか秋らしくなって来ませんでしたが、月末が近づく
につれ朝晩は半袖では肌寒さを感じるようになっていました。9月初旬の学会大会が終了し、その後も会誌の編集の仕事やいろんなデスクワークでなかなか落ち
着けない日々が続いていましたが、ようやく月末になり大きな台風17号の接近が心配される頃になって一段落し、落ち着けるようになりました。そしたらいつ
の間にか新学期は目の前です。
工学部では建物の大掛かりな改修工事が始まり、他の建物に移転する研究室も出てきて、かなり雑然とした雰囲気になっています。後期の授業も工学部内では行えないものも多く、全学共通の建物を使った授業が多く出てくる予定です。新しい環境に向けて事務室も早々と移転しましたが、10月の新学期からは結構右往左往する事態があるかもしれません。
10月初めにはこの岐阜の地では「ぎふ清流国体」が開かれ、週末には大学の大きな駐車場が国体向けに開放され、全国から集まってくる国体関係者のための様々な行事もあって、かなり慌ただしい雰囲気になっています。国体の開会式に先立って行われた競泳で、高校生が世界新記録を出したというニュースもありましたし、水泳界の世代交代を感じさせてくれました。
9月下旬にはいつも新学期に向けて学生のためのガイダンスが行われ、1-2年生にはポートフォリオを作成するよう促し、いわゆる前学期の「振り返り」を行わせこれからがんばろうという気にさせる時期でもあります。このような振り返りは学生だけでなく、最近は教員に対してもしばらく前から「大学のミッションの再定義を行え」という謂わば振り返りの仕事が
課されてきています。世の中が困窮してくるような新しい環境に入ってくると、今までのような組織の運営では立ちいかなくなる、という危機感の表れだと思い
ます。来年度から工学部の学科体制が変更されます。以前、日本も9月入学の体制になったらどうだ、という話題が出てきましたが、最近はそれに向けた
動きの気配すらありません。体制は変わりますが、博士後期課程の学生が減っている、あるいはポスドク問題も依然として深刻で、科学技術分野で日本からの論
文発信力が落ちているという問題も続いており、大学を取り巻く問題は何ら解決を見ないまま、先送りされているだけです。
政治や世界情勢に目を転じても、日本の政治経済体制の弱体化に乗じてか、新しい環境(世界的力関係)になって様々な圧力が掛かってきているようです。特に領土問題での日韓、日中間の軋轢は酷くなっており、憂鬱感を深めています。領土問題というのは、生物で言えば細胞と細胞の間、あるいは細胞と細胞外環境との間の謂わば「界面の問題」
であり、日々新しい問題が提起されてくるのが界面ですので、生物はそういう新しい問題に対処するために日夜エネルギーをいっぱい使って対処していますし、
いつも鬩ぎ(せめぎ)合いの緊張状態にあります。そうやってようやくバランスが保たれています。多細胞生物である限りいつも細胞間の界面問題は
存在します。世界が多国からできている限り、同様にいつも領土問題は内包されているはずです。ですから「領土問題は存在しない」とか言っていれば何とかな
ると思っているとしたら、たぶん大間違いで、新しい環境に対処できなくなるでしょう。相当なエネルギーを使って、あらゆる方面の手がかりをもとめて対処す
べき問題であり、他人頼みでは絶対解決しないのがこの問題であるように思います。生物では界面問題に対処するために、実に精緻な仕組みを最初から作ってきていますが、人間の政治外交の世界では振り返る余裕もなく実に貧弱ですぐ壊れるようなものしか、つくられていないというのが情けなく感じるところです。
(2012.09.30)