新しいものと古いもの

  
 昨年末から正月にかけては、喪中のお陰で年賀状も来ないので、例年になく本を読んだりテレビを見ることが多かった。あと、ここしばらく呼吸器系の調子が 良くないので、お酒類が飲めず、外もあまり歩き回れず、正月の楽しみの二つが無くなったということもあって、正月はテレビとグルメと本に興味が注がれた。 ダマシオさんの「感じる脳」という本に触発されて、スピノザの「エチカ」も読み始めたのだが、これは見事に脳の眠りのスイッチをオンにするらしく、すぐ眠 くなって、小さな本なのだが、いまだ読みきれていない。

 幸い、テレビ系は、昨年末にテレビジョンも、録画系も、薄型TVDVD/HD/VHS録画方式という最新のものに変えたのと、地デジも、 HDTVも含めた衛星デジもCS110も、もちろんこれまでのCATVも見れる、という環境にしてしまったので、格段に番組の選択肢が広がった。
 しかし、実際見る番組数はあまり増えはしない。映画以外は長時間じっとテレビを見るという習慣は、僕にはないからだが、BS-HiVisionやチデジ を見ると、HDTVモドキであるが、その精細さには驚かされる。昔、医学系の衛星ネットでハイビジョン方式で大学間で通信し、映像を送受信するシステムの 立ち上げに関わったときに観た、HDTVの美しさにびっくりした時、以来である。お陰で、立花隆オーガナイズのサイボーグと脳に関する番組をHDTVモドキで見ることができて、良かったと 思っている。大自然紀行の番組での山や紅葉の美しさは、感動的ですら、ある。

 これだけテレビ系で新しいのを入れると、とたんにパソコン系のADSL1.5M という通信方式は、いかにも古いという感じがしてくる。2005〜06年は、時代の変わり目、という感じを持っていたので、年末からマンションタイプの光ネットワークの契約は済ませていた。工事が終わったのは、 1月27日。ひかり電話にもして、通信も今までのADSLの1メガの環境から、50メガ(下り;計測平均)の環境になり、かなり快適になった。通信も新し くなった。
 テレビからもブロードバンドにアクセスして情報が取れるし、デジタル方式で使われるテレビの電話との連携も、できるようになった。時代は変わった(と いう気になる)。
 今度は、自宅のパソコン自体の古さが気になった。自分の分は昨年既に最新のデスクトップにしてあるから問題は無いが、二人の娘たちのパソコンが、一つは Windows95で動いてるThinkPad(560E)だし、もう一つはWindowsMeで動いているFMVなのだ。圧力もあって、さすがに Win95(ただし無線LAN環境でインターネットもできているのだが)を就活や調べごとに使わせるのは気が引けたので、これは最新のノート型に代えて やった。問題は、余ったWin95のパソコンの余生をどう過ごさせるか、ということだ。もうかれこれ10年近く働いてあまりエラーも起こらずに、無線でイ ンターネットが使える状態なので、古いワードやエクセル、古いIEなどが入っていて、それなりにさくさく動いているので、大学に持ってくれば、何かの役に 立つかもしれないと思って、ラボに運んできた。このThinkPadは、頑丈である。昔は学会などでたくさん旅先に連れて行ったが、ほとんど問題を起こし たことは無かった。Linuxでもインストールしてもいいかもしれない、とも思っていた。
 ところがである。
 1月中旬ごろ、ラボである装置を動かし計測に使っていた英語版の Windows98マシンのシステムが動かなくなった。これは、ある多変量解析ソフトのβ版のようなものをあるメーカーが送ってきたのでイ ンストールして使ってみようとしたために起こった。こういう計測パソコンに新しいβ版ソフトをインストールするとき、Dell機はどうも変なことをするみ たい。Windowsのカーネル部のプログラムが壊れてしまった(ようだった)。現 実には、MS-DOSでしか、動かなくなった。とりあえず、50メガ以上あるスペクトルデータ(といってもほとんどテキストデータで1ファ イルあたり数キロバイト、なのでファイル数は半端じゃない)のバックアップが必要ということで、あの古いWindows95マシンが使われることになった のである。データ転送は、DOS上でRS232Cを使って行った。もう、20年前に戻った気分だった。昔は、DOSコマンドを覚えていて、それなりにサク サクとことを運べていたはずなのだが、もう、だいぶ忘れているし、DOS関係の本なんかもう捨てて、無い。
 DOSの世界では、ファイル名に使う文字の種類や文字数は制限 があったし、フォルダー名にも制限があった。最近の学生さんの、最新のWindows環境でデータ保存するときのフォルダー名やファイル名 は、もう、勝手気ままで、 ドットを使ったり変な括弧を使ったりしているので、DOS上でファイルやフォルダーをRS232Cで転送するときは、エラーを起こしてしまう。それで名前 を書き換えたり、移動したりしてだいぶ時間がかかったが、なんとかThinkPadにデータのバックアップは出来て、ちゃんと余生を送らせることができそ うだった。
 そうこうしているうち、メーカーとも相談して、英語版Windows98のデル機(キーボードは英語しか使えない)に、日本語版Windows98を載せるしか途がないことが分かった。(米国本国で もそのシステムの英語版Win98はほとんど使っていないということだったし)日本語版Windows98のシステムがまわりにない。生協にも置いていな い。メーカーから送ってきたソフト入りCDも役に立たなかった。分析センター辺りに行けば古いパソコンも多い(実際、日本語Windows95 も現役で使っているのであ る・・・)ので、あるかもしれないと思い尋ねていったら、たまたま電顕用パソコンが日本語Windows98で動いていて、その助けを借りることができ た。日本語Win98に代えると、こんどはいままで動いていた装置のデバドラがうまく動作しないとか、ソフトのプロテクションキー用のデバイスドライバが 動かない、とかさまざまな難関があったが、最終的にメーカーさんから送られてきたデバドラ用CDの助けもあって、なんとか日本語Windows98環境で 装置を動かし解析ができるようになった。いままでのデータも生きていたし、何よりUSBメモリが使えるようになったことがメリットである。めでたしめでた し。
 また、私のThinkPadのWindows95(メモリ48MB)は、生協さんのお助けもあって、日本語版Windows98の環境にグレードアップ できたので、PCカード付USBを装着できれば、今度の学会でも活躍できるかもしれない、と密かに期待している。



 それにしても、と思う。
 大学でのパソコン環境は、新しいものと古いものとが実に良く混在しているものであ る。しかし、若い学生諸君は、いまやDOSのことをほ とんど勉強していないし、教わる機会もないようである。だから今回、学生さんに修理を頼むわけにはいかなかった。それでも、実験装置を動かすパソコンとし ては、まだまだDOS環境の装置もあるし、特に自作のソフト環境で伝統的に先輩が使ったソフトを綿々と使っているという場合もあるに違いない(確かめた わけではないが)。伝統的な研究室で実績のある研究室ほど、それはありうると思う。Win95が、まだ現役なのだから、十分アリエールのである。少ないメモリでハードの制限があってもデータがちゃんと取れればいいのである。
 僕は、学生さんは、一応MS-DOSから始めて、Win95へ、それからWin98やらWin2000へ、WinNT、WinXPへ、という歴史を学ん でいってほしいと思うし、特に工学の理論系や情報系はいざ知らず、ハードを使う実験 系ではコンピュータの古い環境も、新しいパソコン 環境も必要(それが現実!)なのだから、それらに対応できる教育も必要なのだろうと思う。卒業研究や大学院の教育では、トラブルがあっても直 してしまうと、どのように直したかを省みて経験を伝えるような時間はとれそうにない。だから、これは早い時期にやっておいたほうが良いと思う。で も、だれが教育するかが問題だが・・・・。


 世間では、「新しい時代の寵児」ともてはやされたLDの○江氏らがタイホされた。ヤフージャパンの真似事をやっているだけのLDが、なぜあんなに儲けているのか、結局分かってきたのは、やっていたのは、ごく古くからあるマネゲーム(ロンダリングとか騙す手法など)であり、それをITや政治やマスコミの衣を被せて新しく見せかけていた、ということらしい。30年程前には、「銭ゲバ」という漫画が流行っていたことを思い出した。騙された人たち、うまく操縦しスター(トリック)に仕上げようとした人たち、いろいろだ。僕もLDが作ったソフトを一本だけ買ってもっていたが(TVRecという、テレビをパソコンに録画するソフト;使いづらいのであまり使えなかった)、この程度のものか、と思っていた。

 新しいものといったって、古いものがちょっとキラキラした衣をまとって新しく見せ掛けているだけのものも、多いのだから、古いものも新しいものも、両方見極める目と、思考力をもちま しょうね、学生諸君。

(2006.01.29)