新しいこと

 
 4月になって、新しい学生さんが配属になり、実験室、居室とも新棟に移り、大学での生活環境がまったく新しくなりました。5年ぶりに、フレッシュな環境 を味わっております。ICカードによる入室システムも慣れてはきましたが、あのピッピーの開錠する音が耳につく。
 学生さんも、実験室では飲食ができないので、リフレッシュコーナーを徐々に使いこなしている模様。そんな感じで、まだ実験室などはフル回転の状態ではあ りませんが、ぼちぼちと新環境になれていくことでしょう。
 同じように新しい環境は、通勤するところにも出現しました。岐阜市内からあの「電 車」が消えたのです。そのため、これまでいつもたびたび引っかかっていた踏切が、無くなった、というか、名残は在るが気にしなくて良くなっ た。これまでは、引っかからないような時刻を計算して、家を出るようにしていたのですが、それも気にしなくて良くなった。これは、岐阜市内電車が90年の幕を下ろしたことによる、まあ、メリットとよぶものなのでしょうか。
 新しいこと、というのは、新しいものができてくることだけではない。今まで何気なく当 たり前のようにあったものが「無くなる」という事態も、新しいことなんです。実際は、電車の代わりに岐阜バスが増えて、新路線ができたもの の、朝の通学用のバスがかなり混む様になった(と娘が嘆いておりました)。
 幸か不幸か、これまでの市内電車の路線上には、岐阜大学が無かったので、電車がなくなった直接の影響は無いようですが、もしこの路線(名鉄揖斐線)が今 より北2Kmのところを走っていて岐阜大学の近くに電車の駅があったなら(逆に、岐阜大学がその路線の近くに作られていたなら)、たぶんこの路線は使われ 続けていたかもしれない、ということを考えますね。大学病院が市内のど真ん中から今のところに移ってきて、交通の便はだいぶ悪くなったようだし、排気ガス を出さない電車が大学病院に通う患者さんには良いほうに働いたのではないかな、とも思いますね。無計画性の付けが回ってきた、というか、電車を生かすような都市計画がなされてこなかった、ということ。
 ま、いまさら言っても始まりません。それから、身の回りでの新しいことといえば、4月から非常勤枠が減らされて、専門の科目の担当が一つ増えたこと。そ れで代謝のことを教え始めました。最近は、代謝ネットワーク制御のことが、仕事の一つなので、これは本職の一つ。もう一つの、生物数学は、どちらかといえ ば副職。



 その生物数学の授業で、先日やった話で結構受けた冗談がありました。
「博士の愛した数式」(小川洋子著)などでも最近取り上げられていたオイラーの公式を説明した時のこと。いつもは、あっさりと説明するだけだったのです が、話題性もあると考えて、ちょっと「真面目な冗談」を披露してしまいました。
 すなわち、オイラーの公式は、eという指数関数 での主役と、πという周期関数での主役とが虚数i を介して結合したもの」として、世にも美しい関係を 表現されることがありますが、これを私なりの生物がらみの表現として、「生命活動 は、増殖という指数関数関係の現象と、分化という周期関数関係の現象とが、i (イマジナリーな数;愛)を介して統合されたもの。雄と雌の関係みたいな・・・。」と垂れてみました。これは、結構笑いを取って受けてくれ たみたいですな。これは、最近思いついたジョークな表現なんですが、気に入っています。
 それにしても虚数のi と、「愛」とくっつけるなど、おやじ ギャグもいいとこ、と思ったでしょうな。しかし、、、と、ここで考えて見る。虚数i は、2乗してマイナス1になるものだ。愛だって、2乗して強くなりすぎた「愛」は、「憎しみ」に変わるんだよ。。。(この話は授業未公開だ が、これもきっと受けるにちがいない) 
 愛は、だから、足し算くらいがちょうどいいのです。
 もうちょっと付け加えると、増殖が指数関数と関係するのは自明のこととして、分化が周期関数と関係するか、疑問でしょうな。そう、分化して「形態が形成 される」のには、自己組織化(散逸構造形成)という周期的な現象の複雑な絡み合いが 必要なんです(プリゴジーヌ賛歌)。
 そして、生物が生きていくには細胞の増殖と分化が必要である、というのは、異なった細胞現象が統合されていなければならない、ということ。増殖だけでは 癌細胞になっちまう。統合する原動力を「愛」と呼びたければ呼べばいいし、制御された代謝ネットワークと呼んでもいい。どちらも広いでとらえなければならないし、線でとらえては不十分(一直線の愛は危う い!)。つまり、iは、複素平面でこそ捉える事ができるんです、と さ。(チャンチャン)

(2005.04.23)