嵐が過ぎたらもう秋

 
  台風13号が近づいていますが、これが過ぎたらいよいよ秋本番、なんでしょうが、この8月~9月は、9月1,2日の学会大会という嵐があって、お盆前 から局地的豪雨のような下準備、そして大会本番という台風の暴風雨圏に突入、過ぎた後の吹返しのような大会の後処理、、というわけで、現在ようやく 大方の 処理が済んで17〜18日の本当の台風襲来を落ち着いて待ち受けることができるようになりました。

 それにしても、小規模の大会とはいえ、本大会のほうで二百数十名、市民講座の一般市民も入れると三百人強の参加者を迎えるのは、色々細かい作業がござい ましたね。初日にはまだ慣れていなくて、至らない点が多々あり、若干参加者の皆さんにもご迷惑を掛けたことでしょうが、お許し願います。バイトの学生さん も、スタッフの皆さんも、マニュアルに書いていないことにも多く遭遇したと思いますが、創意工夫で乗り切ってくださり、感謝です。

 今回の大会は、これまでの15回の大会の中でもっとも早期に開催する大会になりました。統計をとってみますと、発表件数と、大会の時期は、ゆるい相関関 係があるようで、しかし開催時期が原因とは言えませんが発表件数が今回一番少なかったのです。29件。その割りに、参加者はその10倍近いのですから、こ の大 会の性質は一般の研究発表というよりも、シンポジュウムや招待講演を聴きに来て議論し交流するのが主体の大会になってきているようです。また、2日目の参 加者が予想よりもだいぶ減ったのは、臨床栄養学会が東京であり重なってしまって、そちらに参加者が流れてしまったということにあとで気がつきました。地元 の栄養士会の総会も重なったようです。た だ、そういうことがあっても大会の登録参加者は、まあ想定内の数でした。今回、読みがだいぶはずれたのは、他の学会と重なったせいもあると思いますが、二 日目のお弁当の数(ラン チョンにあぶれた人のためにと用意したサンドイッチ50個)、と一般向けの公開市民講座の参加者の数。 
 公開講座は宣伝としては市の広報誌と、大学の広報課を通して行った新聞メディア5紙への情報の提供だけでした。紙面の一部に小さく載っただけですが、結 構電話やFAXでの問い合わせが多かったものですから、これくらいの宣伝で大丈夫だろう(日本で最初の宇宙飛行士の秋山豊寛さんも来ることだし)、とそれ以上の大きな紙面を使った宣伝に打って出ることをしませんでし た。最初は、大会の2,3日前に地元紙2紙に1段広告を出そうと思っていたのですが、そういうところに力をいれなかったせいでしょうか、市民公開講座の大 会参加者以外の一般参加は7,80名どまりでした。電話などでの反響が好かったと思って600名ぐらいくるんじゃなかろうか、とひどい勘違いをしていたの は、このようなイベント開催の素人であったからで、ただそのことで困ったことにはなっておりません。同じ日に大垣市であった毛利衛さん(宇宙飛行士)の講 演会には800名が集まったと新聞に出ていましたので、これだけ日本で宇宙飛行士が誕生しているのですから、「日本人で最初の宇宙飛行士」というタイトル だけで人が集まると考えるのは、錯覚でした。むしろ、宇宙飛行士を経験したあとで、地上で「育てて食べる暮らし」を実践している、ということのほうが貴重 であると思いますので、参加された一般市民の方たちは相当食の問題に対する意識の高い方たちだろうと思います。
 大会を取材していただいたすべての新聞メディアには、大会期間中およびそのあとで、大会自体と公開講座のわりと詳しい記事を書いていただきまして、学会 自体の宣伝にはなったと思っています。
 
 この脂質栄養学会は、脂質栄養に関する指針を作ることを目的に、15年も続いているわけですから、その間、世の中の脂質栄養をめぐる状況は変わっていま す。学会が主導的に提唱してきた「リノール酸摂取を減らそう」という 提言もあって、食用油脂の多くはリノール酸量を減らす方向に動きオレイン酸を増やしたものが増えてきた、という市場の流れに学会の活動がかなり影響はして いると思います。この学会は、基礎研究と、臨床的研究および経済産業動向と密接に繋がっているところです。従って、関係する企業としてはこういう学会での 成果が商品の売れ行きに直結するということもあるわけで、その真剣さが感じられる反面、単純化した議論が横行しやすい危うさを孕んでいます。基調講演で、Dr.Landsがちゃんとそのことにも触れておられました。

 脂質栄養が、人間の精神活動や健康という極めて複雑な要因の統合された現象に関係する場合、到底単純化した議論では理解し得ない機構が存在するはずで、 だから様々な相反する議論があってしかるべき分野なのですが、そのような議論をしっかりとするところが学会大会であると考えます。ですから、あれは良い、 これは悪い、というような単純化した議論にはもともとこの学会はなじまない。今回の大会では、そういう意味からも議論が起こりやすいように、主張が食い違 うことがわかっている方々も呼んで討論する場を設けることを狙いました。そのため、シンポジュウムでは結構議論が盛り上がったと思います。このようなプロ セスを経て、分子的生化学的レベル、細胞レベル、実験動物レベル、人間のレベル、人間集団のレベルでの現象が、複雑に入り組んだ階層を通して、メカニズム が矛盾無く理解できるようになって、初めてみんなが納得する脂質栄養指針ができるはず、と思っています。脂質栄養の人間に対する影響は単純ではありえない。だから、長く真剣な議論が必 要なのです。
 このようなスタンスを持つ学会として、これからも続いていけることを願っています。



 今回、疫学関係のシンポジュウムを開くにあたって、専門外の分野ではありますがそれなりの書物を元に勉強させてもらいまして、大変勉強になりました。時 々、このような専門外のことを真剣に勉強する機会を作るのは大事であることを痛感しています。専門内の言葉しか理解し得ない研究者が多くなっている昨今、 専門が異なるとその意図するところ、問題点などがまったく理解しないまま、話を進めていくことが多くなってしまいます。だから、話が単純化してくる。
 そういう意味でも、非専門領域の学会にも時々真剣に話を聴きに行って、色んな情報を仕入れてくるというのは大事なことですよ。

 もう秋ですから、秋の夜長にでもまた色んなことを考えていきたいと思います。

(2006.09.18)