秋も駆け足で

  10月に入って後学期の授業が始まると、いつも全学共通の授業の話のネタにノーベル賞の話題が気になる時期になりました。
早速医学生理学賞が脳の研究(Place cellsとGrid cells)に対して与えられ、授業でもこの話題を使いました。化学賞では高解像度の蛍光顕 微鏡の開発の仕事に与えられました。これも分光屋としては面白い話題です。また、物理学賞にはあの青色LEDの開発で有名な赤﨑先生と天野 宏先生、それと中村先生が 選ばれました。みんな、いつかは青色LED研究にノーベル賞というのは考えていたはずなので、やっとですね、というという印象でしたが、それにしても赤 﨑・天野の師弟での受賞というのは素晴らしい。赤﨑先生はもう御年85歳をすぎてもなお現役でLEDの研究を大学で続けているとい うのも、この日本では珍しいと思いますが、名城大学の頑張りも素晴らしいと思います。
 ところで、以前はもしLEDでノーベル賞ということがある場合は赤色LEDのホロニアック、緑色のクラフォード、そして青色の赤﨑、の3人で の受賞だろうと思っていました。でも後で受賞理由が分かると、実用化と技術の普及という点では青色LEDができたことの意味は格別であったことがわかります。 中村修二先生の貢献は今までも色んな所で語られているのでここでは触れる必要はないでしょう。今はアメリカ国籍になっておられるようですので、ホロニアック先 生に 代わって米国代表としてという意味合いがあるのかもしれません。
 LEDでは大きなバンドギャップを作って青とか紫色を出すのが難しいとされてきましたが、それが青色でできるようになり、今後はもっと変換効率を上げて 100%近くまでもっていったり、紫色LEDを実用化するのが課題という話が出ていました。このような半導体を使った発光では、電気エネルギーは光+熱に変換 されるので、いかに熱になるのを抑えて光に変わるのを促進するのか、というのが課題なわけですが、発想を変えて、可視光を出さず100%熱に変えるLEDはな いのか、という ことを課題にしてもいいのではないか、と思っています。熱に変える、というのは結局は赤外線のエネルギー(遠赤・マイクロ波まで含め)に変換 するということですが、もっと効率の良い赤外光 源、それも波数を自由に変えれる赤外光源はできないのか。できたら現在よりももっともっと小さく電気の喰わない赤外分析装置ができるはずです。小さなギャップでいいはずな の で、最初に赤色LEDができたように、簡単なはずなんですけどね(逆に難しいのかもしれませんけど?)。

 10月も下旬になると、だいぶ冷え込む日が増えてきました。秋から冬へ、駆け足で変わろうとしています。御嶽山にも雪が積もるようになって、まだ噴火の被災 者の捜索は終わっていませんが一応打ち切りになって、後はまた来年、ということになっています。僕のマンションからも見通しの良い日には東の山入端に御嶽山等 の山々が遠くに微かに見えますので、時々「全国の火山に避難壕ができますように」などと祈っています。以前は噴煙も少し見えましたが、この頃はあまり高くは上 がっておらず、遠くからではほ とんど見えません。

 この頃は、世界的にエボラ出血熱のパンデミックが問題になっています。エボラやマールブルグ病などが、昔も、数十人とか数百人オーダーで流行があって『アウ トブレイク』という映画になったりしていましたが、今回は10,000人を超える感染者、4,000人を超える死者数が西アフリカを中心に発生したということ で、またアメリカやヨーロッパでも感染者が見つかったということもあって、大問題になっています。一昔よりもずっと世界的な人の移動が進む現在ですから、これ だけの感染者が出てくると、海外旅行だけでもどこで感染するかわかりませんから、不安にもなります。どうやって押さえ込んでいくのか、見守っていきたいと思い ます。

 話を国内の大学の話題に変えると、独法化から10年たった国立大学(国立大学法人)ですが、またぞろ、再編改革のうごきが出ています。独法化の成否をまとも に評価することなく、次々と改変が進んでいきます。この間、予算も人員も減らされる一方でしたから、教育も研究も良い方に行けるわけがなく、研究ではバイオ医 学分野だけでなくほとんどの分野で研究論文生産性が停滞あるいは減少している、という危惧すべきデー タがあります(豊田先生分析;以前にもどこかで引用した気がする;また別 の分析もある)。各国との比較でも、独法化以降の日本だ けの傾向で、他の国は大体論文数・生産性は順調に伸びている。だから、10年前の大きな 組織改編で日本の国立大学の研究教育環境は良くはなっていない(潜在能力はあるのだが環境は悪化)、というのが大方の評価でしょう。ところが、昨年度から自分 の大学・学部の 存在意義を明確にせよ、などと中期計画・中期目標の設定を急がされていました。そうこうするうち、今度は文科省の有識者会議では、既存大学の8割を職業訓練大 学化( http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gijiroku /1352719.htm )しよう、という話がでているようです。例えば、工学部では機械力学や流体力学を教えるのではなく、TOYOTAで使 わ れている最新鋭の工作機械の使い方を学ばせる、などということが、堂々と、出てきます(これは専門学校である豊田高専にも失礼でしょう。豊田高専はもっとりっぱな教 育目標をもっていますよ)。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/10/23/1352719_4.pdf
こうなると、もう苦笑せざるをえない。批判する気力も失せる、この年になると。

 ただ、このような話(大学の職業訓練学校=専門学校化するという話)は、実は10年以上前にも独法化するときの議論であった記憶があります。何とか80数大 学の国立大 学を減らしたい、という流れがあって、手を変え品を変えて大学の区分けをしようというのがあったので、それが10年たって本気になってきたと観るべきでしょう か。20個ぐらいのG型大学(GといってもGifu大ではないが)というGlobal化に対応できる研究大学と、60個ぐらいの「専門学校」化したL型大学 (ローカルな)とに改編(先日、スーパーグローバル大学として国 立21大学が選ばれましたが、そのままG型大学になるのかも?)。ますます大学での教育研究の質が落ちるなぁ。もうやってらんない!という気分に なってもしょうがない。そもそもそんな認識では、今ある専門学校に失礼です。国立大学は何度も同じ過ちを繰り返 している気がする。これではもっと私立大学に頑張ってもらわないといかんかも。

 これは大学全体の話。一方、同時進行でバイオ・医学医療系の分野では、独立行政法人日 本医療研究開発機構というのが来 年4月にできるらしい。いわゆる日本版NIHですが、文科省、経産省、厚労省の一部を一本化して、基礎研究から実用化まで一体としてすすめようと しているようです。しかし、その独法の職員数の予定が102 人という少なさ、ですからなんとも心もとない(一方300人規模という報 道もある)。米国NIHの職員数は18,000人を超えますから、どちらにしても比べようもない。も ちろんうまくいけば、いいのだが。。。 ただ、、、
 昨年から問題になっていた臨床研究の在り方、ノバルティス社のデータ不正問題、J-ADNIの認知症研究での捏造問題、理研でのSTAP細胞問題、など日 本の医学・臨床研究に世界的に疑いの目が向けられている昨今、これらにちゃんとけじめをつけて再出発しない限り、新しい独法を作っても、信頼されないのではな いか。そんな絵空事のような組織作りに汲々とするより、もっと医療に貢献できる人をたくさん育て、新しいアイディアを生み出せる人たちを育成する仕事を「こ ぴっと」やっていきたいなぁ、と思っている今日この頃です。もう時間は無いが・・・。

追記: なお、ごく最近31日のNature誌に(http://www.nature.com/news/the-top-100-papers-1.16224)、 これまでの科学論文の引用TOP100 というのが発表されていました。 ExcelにまとめたものをPDFにしてここからリン クします。上位のほとんどが研究に必須な技術を開発した論文であることが興味深い。一位が蛋白質定量法のLowry法の論文(1951年)であ る、というのは誰でも納得(でも今ではLowry法自体はあまり使われないで、3位のBradford法が有名かもしれないが、実際うちのラボで使っている BCA法は60位のSmithの方法)。脂質抽出法のFolch法とBligh&Dyer法もそれぞれ9位と18位に位置している。日本人では飯島澄 夫先生のカーボンナノチューブの論文(1991年)が36位にある(飯島先生も今は名城大学にいて相変わらずノーベル賞候補者である)。これらの中でノーベル 賞受賞者がいるのは2つの論文だけ(SangerのDNA配列決定法とMullisのPCR法)というのも、たくさんの「地上の星」があってこそ科学研究が進 んできたという証し。このような歴史的な論文を分析してみるのも面白い。

(2014.10.30)