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これからの柿栽培・柿経営を考える

1.生産体制の強化
 岐阜県における柿農家戸数は年々減少している。これは、柿生産における所得率が低く、所得自体も低いのに対して、労働が過重であることに起因していると考える。柿農家戸数の減少は兼業農家の増加を助長しており、専業農家が少ないことは、これからの柿栽培を考えた場合に大きな課題となってきている。すなわち、この兼業農家の割合が高いことは、後継者の不足も関係して、柿農家の平均年齢の今後の上昇を招きかねない。さらには都市化に伴う柿農家の戸数の減少や栽培面積の減少とも関係が深いものと考える。特に本巣郡は、近い将来、東海環状道路等の建設が予定されており、柿農家数の減少あるいは栽培面積の減少が予測できる。また、現在の本巣郡の柿の樹齢は大きく偏っており、産地全体の生産性が今後低下することが予測される。
 このような状況は、産地全体の活性の低下を引き起こし、さらにその速度を加速するものと考える。
 したがって、本巣郡のこれからの柿生産を考える場合には、柿産地を維持するためにも、専業農家への農地の集中を検討せざるを得ないが、これにも大きな問題を抱えている。すなわち、柿栽培は、後ほど述べるように、コメと同様に少面積で管理する場合には労働時間が短く、第2種兼業農家にとって柿栽培は土地財産保有の手段ともなり得ることが問題となっている。
 しかし、果樹産地を発展させるためには、専業農家の生産体制を強化する必要があり、農地の集中を進める必要があり、さらに農業所得を増大させることが最も重要であるが、この点については問題点もある。
 農業所得を増大させる方法としては、(1) 高価格の生産物を出荷することが挙げられ、高品質化を追求する方法がある。しかし、高品質の果実を生産するためには栽培管理を含めて多大の労働投資が必要となり、面積の増大を伴わない。この他、(2)反収の増加も生産量が増加することから農業所得を増大させるが、現状の反収を大幅に増加させることは、栽培技術の問題から困難であろう。(3)栽培面積の拡大も農業所得を増大させる効果があるが、専業農家は充分すぎるほどの面積を管理しており、現状の労働条件のままでこれ以上経営面積を増やすことは不可能である。
 以上のことから、現状を容認した上で専業農家の生産体制を強化することは極めて困難で、何らかの改善を伴わない限りできないと考える。

2.柿生産の労働時間
 柿の10a 当たりの労働時間を岐阜県発行の「主要園芸作物標準技術体系」から算定すると富有で149時間、西村早生で 176時間である。一般労働者の労働時間を週休2日で計算すると1920時間になり、単純に10a当たりの時間をわり算すると、富有では 1.3haの面積を管理し、西村早生では1.1haの面積を栽培する必要がある。しかし、これを実現することが困難である。
 すなわち、1920時間の労働を行うためには収穫時の11月の日労働時間は41.2時間となり、1日24時間を大幅に越え、物理的に不可能となる。
 現在、1人当たりかなりの栽培面積を管理している専業農家が存在するが、この場合にはかなりの過重な労働を収穫期間に行っていることを示している(すなわち休日なし、1日12時間以上の労働)。
 仮に、サラリーマンと同じような週休2日制を取ったと仮定して、栽培可能な面積は、富有で25a、西村早生で 36aであり、これに要する労働時間は、富有で374時間、西村早生で 640時間に過ぎない。さらにその多くが収穫作業に集中し、富有では全年間労働時間の43%が収穫に取られ、西村早生でも25%が収穫に相当するような著しい労働の偏りがみられる。
 このように、柿専業農家の生産体制を強化するためには、年間の労働の分散を考える必要がある。
 年間の労働分散をはかる方法としては、(1)大規模複合経営、あるいは (2)収穫作業の省力化しか考えられない。

3.ニュージーランドの農業
 大規模複合経営については、1997年10月にニュージーランドの柿生産を調査する機会があり、その生産体制が一つの参考となると考え、紹介する。ニュージーランドは、日本の北海道を除いた面積に,300万人の人口が住み,うち100万人が都市部に,残りの人口が全国に分布している。広大な平野と丘陵地があり,土地生産性農業に適している。また,国土は南北に広がり,北部の気候は日本の四国・東海に近く,南部は東北地方に近い気候である。
 ニュージーランドの農業は、土地生産性農業を基本とするため,施設園芸はほとんど発展していない。ただし,北部の暖地では柿のハウス栽培が開始されている。
 ニュージーランドは人口が少なく,農業従事者の割合が高いため,自国内消費量が少なく,生産された農業生産物のほとんどが輸出用であるが、日本は一つの市場で,唯一の市場ではない。したがって、海外の品質管理レベルを正確に調査し、品質評価と省力化を積極的にはかっている。その方法として、樹形の選定、機械化を始めとする生産体系の確立を目指している。
 ニュージーランドの農業は、家族経営を基本としているが、企業的な農業を目標としており、労働配分を考慮した農業が行われている。
 例:従業員50名。柿栽培面積 100ha(内訳、富有:30ha,刀根早生:30ha,その他の柿:40ha)、ジャガイモ:150ha、小麦:150ha、トウモロコシ:100haである。同様に、南島ではアンズ、モモ、ナシ、キウイー、リンゴを1農家が栽培していた。
 このように、ニュージーランドには柿農家やリンゴ農家はおらず、従業員が年間労働するための作付け配分あるいは作目の選択が行われており、従業員についても年間雇用を基本とし、いわゆるサラリーマン農業を目指している。それぞれの企業には、作物ごとの生産管理部があり、「柿生産部長・係長」などの肩書きを持つ作物別の管理責任者がいた。

4.大規模複合経営
 日本における果樹の農業所得を考えた場合、労働時間を1920時間に近づけることで農業所得が増加する傾向があり、これを実施するためには富有や西村早生の単作にこだわる限り絶対に不可能である。
 現在、農業の法人化が論議されているが、柿生産農家同士の共同経営は更なる利益を生むことはないと考える。したがって、農業法人を考える場合には、異なる作目を生産している農家同士が集まる必要があることは容易に理解できる。
 そこで、富有・西村早生・梨幸水を生産したと仮定して算出すると、57aを栽培し、労働時間は1064時間と著しく長くなり、所得も2倍以上に向上した。また、加えて玉ねぎを生産すると、労働時間は1162時間とさらに向上する。岐阜県本巣郡では水稲を加えることも有利であろうと考える。このような事例は、既に長野県では見られ始め、リンゴの単作地がプルーンやラ・フランスなどの複合産地に移行し始めている。本巣郡では、柿農家、梨農家、野菜農家、水稲農家が集団化することによって相互の労働供給が可能となり、年間の月ごとの労働時間も平均化するため、ニュージーランドのように雇用を考えることも可能となってくると考える。
 現在、花卉生産では雇用を伴う農業法人化が実現しており、雇用者を増加させることで加速度的な規模の拡大も容易になっていることは、年間の労働が平均化していることと密接に関係している。
 大規模複合経営の利点としては、(1) 岐阜県本巣郡では、柿農家、梨農家、野菜農家、水稲農家の集団化によって相互の労働供給が可能である。すなわち、東北地方のように栽培作物が限られず、多くの作物を栽培可能である。(2)年間の月ごとの労働時間が平均化できる。このことは、営農者本人の労働改善を伴うとともに(休日なしの14時間労働、残業手当なし)、(3)雇用を考えることが可能となってくる。このことは、規模拡大にも当然つながってくる。また、(4)単一作業が少なくなる。毎日同じ作業を2ヶ月も繰り返すと、誰でもイヤになってくる。(5)肩書きが付く(例:柿生産部長)。農家の名刺には柿生産としか書いてないが、花の生産者の名刺には代表取締役や生産マネージャーの肩書きがつく。後継者にとって、同窓会に行った場合にも気分が違う。(6)休日が確保できる。後継者にとって、デートの時間もない。結婚問題にも波及する。(農繁期の1ヶ月間デートもできない状況で、彼女を引き留める自信は私でもありません。)
 しかし、果樹主体の複合経営では収穫や摘蕾・摘果の作業に偏りがあり、労働時間あたりの収入も低い。この原因の大きな理由は、収穫作業が効率的ではないことが原因である。したがって、現在の柿(果樹)栽培の生産体系は、複合経営には向かないので、収穫に関わる時間を大幅に減少させ、作業の効率化をはかる必要がある。

5.作業の効率化
 富有の収穫作業は43%を占め、西村早生では25%を占めている。このように、柿の労働時間の大きな割合を占めているのが収穫であり、この収穫に関わる労働時間を増加させている大きな要因は「脚立の移動に要する時間」である。脚立の移動時間は、収穫作業の60〜70%を占めており、収穫に脚立を用いない栽培方法の確立は柿栽培の省力化に大きく役立ち、さらには経営規模の拡大を容易にさせる要因となる。
 岐阜大学で試作している柿のボックス栽培を露地で実施した場合の10a当たりの労働時間は 118時間で、1日当たりの労働時間を8時間、1カ月20日働いた場合の栽培可能な面積は66aとなり、労働時間も 778時間と通常の富有生産方式の2倍以上の労働が可能となる。このように、柿栽培において最も省力化を図る必要がある作業は収穫であり、切り下げによる低樹高化やボックス栽培の導入などを専業農家は考慮する必要がある。ちなみにボックス栽培の収量は、露地栽培よりかなり多くなり、年間労働も平準化される。
 また、作業の効率化は上記のように栽培可能な面積を増大させることから、規模拡大を容易にし、岐阜県本巣郡において今後最も要求される専業農家への農地の集中を可能にする。
 作業の効率化に関わるニュージーランドの事例として、生産圃場への乗用車を含む車両の乗り入れがある。生産圃場は整備されており、列間が広く、収穫物や資材の運搬に乗用車やトラクターが利用されており、防除にも威力を発揮していた。列間が広いことは、日光の照射や風通しがよくなることにもなり、是非日本でも導入する必要があろう。

6.生産物の販売戦略
 過去、果樹においてはリンゴとミカンに代表される販売戦略が取られていた。すなわち、高級品化と大衆化といわれる販売戦略で、それに伴って生産体制も大きく異なっていた。しかし、高級品化は生産費の上昇を招き、さらに価格の上昇は消費量の減少を招き、現在のリンゴ産地は輸入の自由化もあいまって、産地の衰退を招きかねない状況に追い込まれている。
 したがって、これからは「生産者にとって良い果実」ではなく、「消費者にとって良い果実」を生産する必要が出てくるものと考える。消費者にとって良い果実とは、安全で、美味しく、健康に良く、新鮮で、旬を感じさせる果実である。しかし、これらのキャッチフレーズは自然と出てくるものではなく、産地から消費者へ積極的に情報宣伝を行うことによって生み出される。
 例として、ジャガイモの例がある。市場において、多くの産地の中である特定の産地のジャガイモのみが高く取り引きされたことがあった。この産地のジャガイモには生産者の夫婦の写真が1枚ずつ箱の中に入れられており、これが高値を生んだ原因であった。またイチゴについても、福岡県は「イチゴの旬は12月」のキャンペーンを行い、12月の福岡県のイチゴの価格を上昇させた。またリンゴの例では、無袋栽培の導入初期に、青森県は「無袋フジ」と命名し、長野県は「太陽の申し子・サンフジ」と命名したことによって大きな価格差を生んだ。
 このように、通り一辺のキャンペーンではなく、情報宣伝に多額を投資するような発想が必要である。

7.地域の活性化
 産地の活性化に向けての方向として、消費者との連携が重要である。その一つの方法として観光農業がある。観光農業とは「柿のオーナー」のような制度ではなく、消費者が年間を通して幾度となく産地に出かけ、生産者と交流することであり、単一作物のみでは成り立たない。年間を通じて消費者が収穫できる作物があり、レジャーとして観光農業がとらえられている。このような点からもブルーベリーやキイチゴなどの小果樹や梅などの柿以外の果樹の導入を検討せずに観光農業を発展させることはできない。観光農業では高収入を期待することはできないが、地域の活性化や労働配分の効率化などの利点から、是非導入する必要があり、岐阜県本巣郡は都市近郊にあることからも有利な地域といえる。