California Pajarosa Floral
Watsonville, California USA
2005年9月にアメリカ・サンタバーバラで国際バラシンポジウムがあり,産地視察でカリフォルニアのPajarosa社の切りバラ生産を視察しました。
Pajarosa社はサンフランシスコの南東に位置します。この地域は気候が温暖で年間日射量が多く,水質が良いことから,古くから野菜やブドウなどの生産が盛んな地域です。海と山に近いため昼夜温の格差が大きいが朝方に霧が発生するため適度の湿度が確保でき,以前は多くの日系人がキク,バラ,カーネーションの切花生産を行っていました。有名なアンディーマツイ農場もこの近くにあります。
アメリカの切りバラ生産は,教授の一言コラムにも書いてあるように,エクアドルとコロンビアからの輸出攻勢を受けてほとんど崩壊し,2003年の国内産シェアは15%以下です。この様な状況の中で行われている切花生産会社の戦略をみることができました。
Pajarosa社は1979年創業の切りバラ生産会社で,会社の敷地面積は70エーカー(28ha)で,温室の面積は760000平方フィート(7ha)です。
養液栽培主体の切りバラ生産を行っており,ロックウール栽培はアメリカで最も早い1992年より開始し,現在は環境に配慮した養液循環式システムですべてが管理され,回収された養液はサンドフィルターで除菌しています。サンドフィルターでは線虫対策が問題点であるため,加熱殺菌,一部は殺線虫剤も使用しています。ロックウールは廃棄問題が解決されていないため,最近はココピート,クレイペレット,パーライト,ピートなどに転換しています。栽培法はアーチング仕立てで,長い切花で高品質なバラを生産することにつとめています。
害虫防除には天敵の導入の他,青色粘着シートや黄色粘着シートを用いたり,ハウス内に循環線を設置して,農薬使用量の削減にも積極的に取り組んでいます。
暖房は天然ガスを用いていますが,加温効率を高めるために,上部被覆はプラスチックフィルムを二重に被覆し,その間に加圧空気を入れて膨らませるエアードームを導入していました。(下の写真で温室の屋根が微妙に膨らんでいるのがみえると思います。)
生産している品種数は140品種です。
全体の生産面積が70000uですので,1品種当たり500uです。実際には,主力品種は別にして,25mの1ラインごとに品種が異なっており,明らかな少量多品目生産に徹していました。
植栽品種の選択には生花店やスーパーからの要望を取り入れ,どのような品種でも要望があれば生産するための苗生産システムも完備しています。
全体の品種構成は,スプレー系品種が60%,スタンダード系が40%となっています。
栽培品種の中に藤色系のラバンデ(Lavande)を見つけました。この品種は花弁数が少なく花保ちが悪いとの評判で日本では生産している農家はほとんどありませんし,当然エクアドルでは生産がありません。しかし,微妙な薄紫の花色に加えて,花首が長く細くてしなやかさがあることから根強いマニアがいることも事実です。
Pajarosa社ではこの様な特殊な品種に対する需要に対しても的確に応えることで,エクアドルとコロンビアからの輸出攻勢を受けてほとんど崩壊したアメリカ国内のバラ産業の中で,したたかに生き残っている戦略を見ることができました。
当日採花したバラは基本として翌日出荷,最低でも2日後までには出荷されます。
アメリカは日本と異なり生花市場がありませんので,6:00a.m.〜4:00p.m.まで生花店やスーパーからコンピュータで毎日発注を受け,Fedexなどの宅配システムや航空便で花店やスーパーに配達します。
主な出荷先はカリフォルニア州内が50%で,シアトル,ポートランド,ニューヨークが50%です。当然,流通形態はバケット流通ですが,ニューヨークなどの遠方では一部段ボール箱出荷も行われています。
下の写真は,温室内での収穫直後の切花の状態です。日本の切り前と比較してかなり遅いことが判ります。選果している切花の中には日本では見ることができないほど開花が進んだものもありました。
バラは蕾から開花までの間に多量の糖を必要とするため,切花鮮度保持剤の中には糖が入っており開花を促しています。しかし,光合成をしている葉が最も有効な糖の供給源であることは間違いありません。鮮度保持剤で開花させたバラと,株で自然に開花させたバラとでは花の大きさ,色の鮮やかさ,香りの豊かさなど多くの点で自然開花したものが優れているのはいうまでもありません。また,自然開花したものはベントネックがほとんどなく,消費者の手元で完全開花に至るため鑑賞期間が長くなります。
当然,前処理剤で切花処理をし,宅配会社と連携したコールドチェーンで輸送しています。
生け水は毎日細菌検査を行います。
また,切花保持検査室を自社で持っており,切花の花保ち試験を実施していました。
自動選花機も導入されていますが,多くの従業員が働いていました。従業員は明らかにメキシコ系の人で,人件費の節約に苦心していることが判りますが,自動選花機が導入されていることからみて矛盾点を感じました。
担当者に伺って判ったことですが,Pajarosa社では選花機で選別した切りバラを,再度45度の角度で基部2.5cm切り戻しを行い,消費者の手に渡ってからの水あげに配慮していました。また,構成品種がスプレー系品種が60%であり,花弁数の少ない特殊な品種は選花機で選別できないため,人手で選別を行っていました。
選別・切り戻しが終わったものはPajarosa社のロゴマークの入ったPP包装が行われます。
Pajarosaの切りバラはこの消費者の手に渡ってからの高い評価が支えているといえますし,開花状態での採花は2日以内のバケット流通が徹底されているからこそ可能となると思います。
日本では50本ごとの結束が多いのですが,切花の開花状態が進んでいるため,Pajarosaでは選別後の花は25本ごとに結束されます。
パッケージされたバラを見ていて驚いたのですが,バラ品種ミックスの束がありました。
担当者に尋ねたところ,「エクアドルの輸入切りバラは単位が1品種最低50本で,大手スーパーの切花販売では問題ないかもしれないが,一般小売店では25本でも多すぎるという要望があります。私たちは切花鮮度と花店との信頼関係を大切にしているので,ミックス束であろうと何でも要望には応えます」という答えが返ってきました。
下の写真は,栽培中に花首が曲がらないようにクリップを花茎に挟み,ゴムで上から引き上げる道具です。日本でも神奈川県のバラ温室で見たことがありましたが,製品率を高めるための配慮が伺われました。
海外からの輸入切りバラに国内市場が専有されたアメリカにおいて実践されていた生き残り戦略は,現在の日本における海外対応策として大きなヒントを与えてくれると考えます。
品種の選択
1. 海外と同じ品種を生産しない
2. 海外での生産・流通が難しいスプレー系品種や花弁数が少ない特殊な品種の生産にこだわる
3. 特殊な品種であっても,消費者が望む品種を的確に生産する
消費者ニーズの把握
1. 消費者が望む鮮度を優先に考える(生花店が望む鮮度ではない)
2. 生花店と連携をとって,出荷した切りバラが速やかに消費者の手に渡るように,毎日のこまめな発注に努める
3. 購入した切りバラが最後まで開ききる楽しさを消費者に提供する(切り前を遅らせて収穫する)
4. ホームページを充実し,消費者に対する生産情報の伝達に全力を払う(一度PajarosaのHPを見てみてください)
顧客本位の対応
1. 小規模生花店向けの需要にも的確に対応し,小口のミックス出荷も行う
2. 切り前を遅らせると流通過程での傷みが激しくなるが,宅配業者との連携をとって独自の輸送方法を確立する
3. 鮮度を重視し,徹底したコールドチェーンでのバケット流通を実施する
4. 流通を根本から改革し,生産した切花を冷蔵庫で長期間保管せず,2日以内で生花店に提供する
5. 収穫後の切花基部の切り戻しや,生け水の細菌チェック,専用の切花保持検査室での花保ち試験の実施など,顧客本位に一手間を掛ける
法人としての社会性の高揚
1. 環境対策を優先して実践し,PRする
2. 中国研修生の積極的な活用