Oserian Development Company Ltd.
Moi South Lake Road, Naivasha, Kenya
2007年7月25日にOserian Development Company Ltd.を訪問しました。
Oserian社は1969年に野菜生産農場として設立され,1982年に切花生産を開始しました。切花は,当初はスターチスの切花生産から始まり,バラの生産についてはケニアで最初に切花生産を始めた会社です。現在はオランダ人の経営切花生産会社となっており,バラ(110ha),カーネーション(103ha),スターチス(17ha),カスミソウ(2ha),トルコキキョウ(6ha)などを周年生産しています。
施設を案内していただいたHamish Ker氏は,イギリス・スコットランド出身とのことでした。
敷地総面積は8,000haで,生産施設面積は230haで,標高は1855mです。
残りの7,770haはサンクチュアリーとして自然保護に取り組んでおり,一部をOserian Wildlife Sanctuaryとして一般公開もしています。
下の写真はOserian社の全敷地面積を示しています。白く見える生産施設以外の原野や丘はサンクチュアリーとして保護されており,シマウマ,キリン,インパラ,ヌー,トピなどの一般的な動物の他にシロサイ,チータ,ヒョウ,ベイサ・オリックス,レイヨウも生息しているとのことです。
従業員は5500人で,その70%が社内のESTATEに居住しており,残りの30%は自宅住居から通勤しています。ESTATE内には病院,銀行,サッカー場,体育館,衛星放送スタジオ,図書館,集会場,教会のほかスーパーマーケットなどの売店があり,中学校・小学校・幼稚園では2,000人の子供が通学しています。病院での治療,中学校までの学費,住宅費は無料です。ESTATEは治安の維持のためにフェンスで囲まれており,入口には警備員が常駐していました。
従業員の健康管理にも気配りが行われており,AIDSに対して「Keep to one partner,Protect yourself,Know your status」の看板がありました。
従業員の賃金はケニアの花き生産会社の中で最も高く8,000〜15,000シリング(14,000〜26,000円)/月で,一般のケニアの切花生産会社の賃金と比較して,恐らく2倍の賃金かと思います。(1シリング=1.76円)
給料は銀行振り込みで,基本給の他に超過勤務手当てや勤務能力に応じてボーナスも支給している。また,女性従業員に対しては3ヶ月の産休手当制度もあります。
従業員の福利厚生にも熱心に取り組んでおり,MPS-Social,Fairtrade Labelling Organization(FLO),Max-Havelaar Foundationに参加し,認証を受けています。
今回の訪問では視察できませんでしたが,Oserian社では組織培養施設を持っており,生産するカーネーションやスターチスの培養苗を自社で増殖しています。
カーネーションはHilverda社を中心に生産しています。育種会社から最新品種を導入して試作し,収量性や品質を判断して栽培品種を決定しています。カーネーションについては,その高い生産技術から育種会社の試作圃場としても活用されており,Barberet & Blanc S.A.社,P.Kooij & Zonen B.V.社,Selecta Klamm GmbH & Co KG社,Hilverda Plant technology社などの品種が試作されていました。試作に当たっては,常に類似の現栽培品種を同時に栽培して比較を行っていました。
コロンビアにも関連農場を持ち,カーネーションでは計120haの栽培面積を持つ世界一の生産グループとなっている。また,オランダのバラ育種会社デルイター(De Ruiter)社,ストックマン(Stokman)社とは合弁会社を作っているほど緊密な連携を相互に取っている。
カーネーションの栽培は1作が18ヶ月連続栽培で,10リットルの袋にパミス(火山れき)を培地としたHydroponicsシステムで栽培が行われています。このポットを用いたHydroponicsシステムでの栽培だと連作障害が発生せず,土壌病害にかかった場合でも他の株に感染せず効率的な栽培だと思います。カーネーションの苗は100%自社での組織培養苗を使用しており,収量は250本/u/年です。
IPM(Integrated Pest Management:総合病虫害防除)に積極的に取り組んでおり,下の右写真は天敵を増殖させるための1haの専用温室です。
Oserian社のスローガン「Green IPM」の取り組みです。
スターチスの生産は,切花生産を開始した1982年から行っており,生産施設もその当時の木造施設でした。面積は18haあり,組織培養苗が使われているため生育も旺盛で,収量は結構多いと感じました。日本で販売されるスターチスと比較して花穂長(ハブラシ)が短い気がしましたが,「日本の需要は調査して知っています。ヨーロッパの需要は短い方が良く売れるため,あえて短くなるように肥培管理を行っています」とのことでした。さすが,25年間スターチスを生産しているだけあります。
カスミソウの生産面積は2haです。品質はなかなか高いものでした。カスミソウは短日条件になるとロゼット化して開花が不揃いになります。赤道直下のケニアは12時間日長ですが,温帯性の植物にとってはこの12時間日長は短日条件にあたるため,電照による長日処理が必要となります。電照は20:00〜6:00に10分照明,20分暗黒の間欠照明を行っていました。
Oserian社でのカスミソウの生産面積は小規模とのことですが,遙か向こうまで続く木造温室は壮観でした。
ヒマワリの切花生産も行っており,露地でのOpen Hydroponicsシステムでの栽培が行われていました。当然Open Hydroponicsシステムの培地もパミスを使用しています。
Hydroponicsシステムで使用される培地のパミス(火山れき)は農場敷地内で豊富に採掘できます。ナイバシャ湖の地域は有名な大地溝帯にあり,小規模の溶岩の吹き出しが頻繁にあります。溶岩が冷えて細かくなったものがパミスで,採掘したパミスは篩にかけられて粒型毎に分けられ,大粒をHydroponicsシステムのポットの下に入れて排水性を高め,小粒をその上に入れて保水性を確保します。
2000年からミレニアムプロジェクトとして温泉熱を利用したスチーム暖房の加温施設での生産が始まっています。総面積は50haで下の写真の湖のように見えるのが生産温室です。
下のパノラマ写真の手前に温泉が湧き出る地熱交換施設があり,熱交換した熱水を写真左の温湯パイプラインで生産温室まで運んでいます。
ニュージーランドの技術を導入して,1,800mの温泉井戸を掘削し,150℃の温泉を汲み出しています。温泉から熱交換で80〜90℃の熱水を得てパイプラインで生産施設まで運びます。施設内では45℃の温湯として夜10時から朝7時まで暖房に使用します。50haのミレニアムプロジェクト温室では各所に温水パイプラインが張り巡らされており,壮観でした。
熱交換した温泉の原水は35?まで下げて地下に戻しており,徹底した環境対策が取られています。
Oserian社のスローガン「Green Energy,Green Heat,Green Production」の象徴です。
2年前にケニアを訪問した時に,暖房を行っている生産施設が3社あると聞いていましたが,Oserian社がその一つだったようです。暖房を行っている3社のうち,1社は太陽熱を用いて暖房を行っているとのことですが,コストが高く実用化に失敗したそうです。
豊富な温泉の高熱蒸気を利用して地熱発電も行っていました。大規模な発電施設が建設されており,発電能力は2MWと大きく,使用電力の75%をまかなっています。現在,残りの25%を電力会社から購入していますが,さらに発電施設を増設しており,2008年には100%自家発電で電力を供給できるとのことです。
まさに「Green Energy,Green Power,Green Production」です。
地熱発電の高温温泉スチームには多量のCO2が含まれており,CO2を貯蔵タンクに貯めてパイプラインで施設に供給していた。
パイプラインで供給されるCO2は,バラ生産温室でCO2施与として用いられていました。供給されるCO2の濃度は800ppmとのことです。2年前から1haのバラ生産施設で暖房とCO2施与の試験を開始しており,下左と中央の写真の白いパイプが暖房用の温湯パイプで,その下にある黒いパイプがCO2施与パイプです。
温泉スチームにはイオウが含まれており,脱硫操作を行ってはいるものの微量のイオウがCO2に含まれています。施設に入ると,かすかに硫黄臭がしました。安全性確保のためにイオウ検出センサーが施設内に設置してありました。
暖房とCO2施与の効果として,夜間の湿度が低下して成長が促進されて収量が増加するとともにウドンコ病やベト病などの病害の発生が減少したそうです。ウドンコ病などの病害の発生が減少した原因として,湿度の低下だけではなく,このイオウの効果もあるのかもしれません。病害抑制効果としてのイオウの効果が実証できた場合,オランダ本国での施設栽培にも活用する予定とのことでした。
生産環境が適しているためと思いますが,開花していたバラの花径はビックリするほど大きく,下の写真中央のピンクのバラはInterplant Roses社の「タイタニック:Titanic」ですが,日本で見るタイタニックと比べて花弁数の多く,花径も2倍ほどの大きさがありました。
施設内はきれいに清掃されており,ゴミ1つ見あたりませんでした。
温室の中には作業注意項目が書かれていました。「適期に収穫する。徒長枝は切り取らない。開花した花は取り除く。光合成枝の折り曲げ。折り曲げ枝の見直し。雑草防除の徹底。潅水の確認。枯れ葉を取り除く。掃除の徹底。温室内の見回り」
作業注意項目表の隣には,農薬散布作業表,シルバーリーフコナジラミの成虫・幼虫・卵の写真,シルバーリーフコナジラミの確認チェック表などが貼ってありました。
バラの試験温室で面白いものを発見しました。
キンセンカ(Calendula)がコナジラミの殺虫効果を持つとのことで1列栽培されていました。Calendulaはハーブの仲間でコナジラミを誘引する効果があるといわれていますが,殺虫効果については調べてみましたが不明です。
トルコキキョウが6ha栽培してありました。連作障害を回避するために,パミスを用いたポット栽培でのHydroponicsシステムでした。生産量は13〜18万本/週です。
トルコキキョウで1作したパミスは,土壌消毒を行わないでバラ,カーネーションなどの他の作物に転用していました。植物が異なるので土壌病害の発生はなく,トルコキキョウの栽培で使用した肥料が含まれているために元肥効果があり,定植した苗の初期生育が良いとのことです。
日本の感覚ではすぐに「土壌消毒を行ってから再利用」という判断になってしまいますが,さすが環境に配慮した切花生産を追求するOserian社です。高温の蒸気があるにも関わらず極力土壌殺菌を行わないことを徹底しています。
選花施設が2施設あり,下の写真は古い選花施設です。選花施設の周囲には庭園があり,きれいに整備されていました。
スタンダードのバラ以外の切花(スプレーバラ,カーネーション,スターチス,カスミソウ,トルコキキョウ)はこの選花施設で選別されてパッケージして輸出します。人海戦術で選別し,パッケージした後,冷蔵庫に入れて予冷した後にナイロビ空港に輸送します。
選花施設の奥には品質検査室があり,日保ち検査が行われていました。すべての品種について日保ち検査を行っています。カーネーションでは10日と14日の日保ち保証ラベルが貼られた切花が検査されていました。
Oserian社はWorld Flowers社を経由してイギリスのスーパーマーケットに販売しているため,日保ち保証は不可欠です。ロット検査を含めて出荷する切り花ごとに厳格な日保ち検査が要求されます。
下の写真は2006年に新たに建設されたバラ専用の全自動切花管理システムが導入されている選花施設です。Oserian社は生産についても様々な先進的取り組みが行われていますが,切花の選別と品質保証についても新たな取り組みが行われていました。選花施設の担当従業員数は1,500人です。
収穫された切花が入ったバケツの下には,花の種類・品種名・温室番号が入力されたICチップが埋め込まれています。
パッケージ施設に搬入された切花は,病害虫のチェックを受けた後,コンベアでパッキングレーンに搬入されます。コンベアにはICチップリーダーがあり,情報が適切に入力されていないバケツはパッケージ施設に入らないシステムになっています。
新選花施設内で導入された全自動切花管理システムにはこれまでOserian社で蓄積された様々なノウハウが投入されていると言うことで,内部の写真撮影はできませんでした。
選花施設に入ると,まず下葉を除去されて予冷室に入庫されます。予冷室には5時間保管されて,選花場に自動的に搬出されます。バケツの下に埋め込まれたICチップを基に品種,採花日時で区分されて,最適な予冷時間がプログラムされており,選花場に搬出されます。
予冷室に入ると塩素臭がしました。予冷中の灰色カビ病の発生を予防するために殺菌が徹底されていることが判ります。
選花場には選花レーンが6列あり,各レーンをはさんで選花台が両側に20台あります。選花台には1人ずつの従業員が選花作業を行っており,選花作業に従事している選花作業労働者の人数は,6×2×20=240人です。従業員の制服の色が4色に分けられており,緑服:選花労働者,赤服:チームリーダー(選花レーンに1人),青服:スーパーバイザー,白服:品質管理検査員となっており,ピラミッド方の作業管理体制が徹底されていました。
選花処理能力は500万本/週で,収穫最盛期に近づくと昼夜2交代制で選花作業を行い,1,000万本/週の処理能力があります。最盛期には選花レーンを3レーン増設し,週1,800万本を選花することができるとのことです。
選花された切花は保冷室に搬入されます。保冷室は6℃と9℃の2種類あり,品種によって温度が分けられています。さらに出荷直前には3〜5℃の予冷庫に入れられ,空港まで保冷車で輸送されます。
選花場の奥には切花品質検査室があり,品質検査室ではすべての品種が毎週検査されます。
輸送中のボトリチス(灰色カビ病)の発生の再現試験としてビニルで密封して検査を行い,ボトリチスに対する品種の抵抗性を試験していました。
イギリスのスーパーマーケットSainsbury’sのパッケージに入れられた花束を見つけました。Sainsbury’sはFairtrade商品の取り扱いに熱心で,さらに日保ち保証を行っています。
Oserian社では花保ち保証期間中にクレームが発生したときには,クレーム品と同じ品種,温室,規格の切花をサンプルに用いて,輸送中も含めて同じ条件で切花管理条件を再現して試験を行い,クレーム対応を行っていました。
パッケージには4.99ポンド(1,212円)の価格が印刷されており,丁寧にも40%割引シールまで貼られていました。
ドイツ向けのFairtrade花束もあり,2.99ユーロ(487円)の価格シールが貼られていました。
また,MPSマークの付いた花束もありました。
生産した切花は毎日オランダとイギリスに各1便ずつAirflo社の航空便で空輸を行っています。
Oserian社で生産した切花の20%は,オランダのTFAオークション(Tele Flower Auction)に輸出し,仲卸会社Bloom社を経由してヨーロッパ全土に販売を行っています。TFAオークションはEast Africa Flower社が前身で,オランダにケニアなどの東アフリカ諸国の切花を輸出するために1984年に設立された花き市場です。また,Bloom社に直接販売も行っており,この他にイギリスのWorld Flowers社を経由してスーパーマーケットに販売しています。
Oserian社は環境保護対策に熱心な会社で,ナイバシャ湖の水質環境の改善に積極的に取り組んでいます。ナイバシャ湖はラムサール条約(水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)に指定されていますが,湖周辺に大規模切花生産施設が建設され,そこからの廃液で水質が悪化しています。Oserian社ではHydroponicsシステムを導入し,植物に吸収されない養液を最小限に管理することで生産施設から出る廃液を最小限に留め,ナイバシャこの水質保護に取り組んでいます。
Oserian社が導入したHydroponicsシステムをナイバシャ湖周辺の生産企業に普及する活動を行っており,ナイバシャこの環境対策運動の旗頭となって活動しています。
案内していただいたHamish Ker氏の「ナイバシャ湖はケニアの永遠の財産であり,切花生産は一時的な産業である。切花生産を行っている企業としてケニアの財産を守る義務がある」との言葉は大変印象的でした。
当然,MPS認証(Milieu Programma Sierteelt)を受けており,MPS-Aを取得していました。また,この他にMPS-GAP認証を取得し,KFC(Kenya Flower Council)環境認証を受けたSilver Memberでもあります。
環境保護のためのリサイクル活動は徹底されており,230haの生産施設から出てくる膨大な量の廃棄被覆ビニルは,切花保持網の支持支柱や自然保護区のフェンス,学校のベンチとして再生しています。
この他,Oserian社ではケニア原生種の樹木を毎年5,000本植林しています。
会社の入口にあるリサイクル金属で作られた「サイの親子像」はOserian社の環境保護精神の象徴として視察訪問者に紹介しているとのことです。
Oserian社のスローガン「Green Conservation,Green Forestry,Green Water,Green Recycling」です。