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世界でも例のない『リンゴの周年栽培』
(インドネシア ジャワ島東部のBatu市)

2010年8月31日にジャワ島東側にあるArjuna山(標高3339m)の中腹にあるBatu市でのリンゴ生産を視察しました。リンゴは1000〜1500mの標高地帯で生産されていました。
インドネシア国内でリンゴが生産されているのはBatu市だけです。
Batu市は、インドネシアがオランダ領であった当時から野菜生産地として有名であった地域で、最高気温22〜25℃、最低気温13〜15℃の環境が一年中続きます。
リンゴは温帯の果樹で春に萌芽して開花します。開花が終わるとシュートの伸長が始まり、7月にはシュート伸長が停止すると共に花芽分化と自発休眠が始まります。早生品種では8〜9月、晩生品種で11月に果実が収穫されます。11月に落葉すると共に、一定の低温要求性が満たされると自発休眠が終了します。このように、リンゴの栽培には低温に一定期間遭遇することが必要で、これが満たされないと休眠が破れず、芽が吹きません。
年中気温が一定しており、低温期間のないBatu市では、どのようにリンゴが生産されているのでしょうか。
リンゴは周年生産が行われていました。果樹園には、開花した樹もあれば、幼果期の樹、収穫期をむかえた樹、落葉した樹が混在していました。

  
  
開花、萌芽、袋掛けした幼果、成熟果、落葉と様々な樹を一度にみることが出来ます。


収穫期をむかえた樹の隣に開花している樹がありました。

1樹で年2回果実を収穫します。リンゴの品種は「Anna(アナ)」です。Annaは日本で栽培されることはありませんが、早生品種で、低温要求性が低く、亜熱帯地域での栽培に適した品種です。

Annaは早生品種ですので、開花から果実収穫までの期間は4.5ヶ月です。恐らく、果実収穫後1ヶ月程度を経て落葉剤を散布し、その後に手ですべての葉を摘葉するものと推定します。果実が収穫できる時期にはシュートの伸長は停止しており、花芽分化も終わっています。しかし、当然自発休眠は始まっており、摘葉を行っても萌芽は始まりません。カルシウム・シアナミドなどのシアナミド剤を散布して強制萌芽させ、開花させるものと推定します。

 

この周年生産の問題点は、人力によってすべての葉を摘み取る作業です。落葉剤は散布しますが、手作業での葉の摘み取りの補助程度の効果しかないようです。
リンゴの生産が行われているBatu市の1000〜1500mの標高地帯は、標高3339mのArjuna山の中腹にあります。ケニアやエクアドルとは違って、インドネシア・ジャワ島の高地は高原台地ではなく、山の中腹傾斜地にあります。果樹園は平らではなく傾斜地にありますので、傾斜が強い場所では棚幅の狭い段々畑の構造になっており、傾斜の弱い場所では傾斜がそのままの状態です。したがって、脚立を使用した高所作業がしにくく、枝の誘引によって樹高を強制的に下げる整枝が行われていました。

 

上の写真を見ると判るように、日本のような果樹栽培の基本である「整枝」の概念がないようです。とにかく樹高を下げることが第一で、適切な受光体制を確保して面積あたりの収量を確保するという考え方は二の次です。
インドネシアではBatu市以外ではリンゴが生産されていないことや、収穫直後の新鮮な果実を周年出荷できる地域が周辺国にないこともあると思いますが、競合産地がないために技術向上に対する意欲が低いようです。しかし、スーパーマーケットではニュージーランド産の大きな「フジ」が売られていましたので、今後技術革新の波が押し寄せてくるものと思います。
視察した果樹園では、ほとんどのリンゴの樹の樹齢は低く10年以上の樹齢の樹をみることはありませんでした。そして、6〜7年生の樹の間に若木が植栽されていました。恐らく、1年2回の収穫は樹にかなりの負担を強いることになるので、次々と樹の更新が行われているのではないでしょうか。
若木が植栽されているところには、キャベツ、ニンジン、チンゲンサイ、サツマイモなど様々な野菜が混植されていました。

 

残念ながら写真を撮ることは出来ませんでしたが、柿の樹がありました。渋柿とのことでした。
Batu市長と懇談する機会がありました。「日本のリンゴ品種「フジ」を栽培したい。渋柿が栽培されているが、甘柿を栽培したい。富有柿を栽培したい。梨を栽培したい。」とのことでした。出来るだけ協力したいと思います。

● Batu市でのリンゴ周年栽培の課題と目標

・ 整枝方法の改善
  → 平面的な整枝方法から立体的な低樹高整枝を行うことで、面積あたりの収量を2倍にすることが出来ると考えます。

・ 摘果の実施
  → 1花叢に1個の摘花が行われていますが、葉果比が小さく充分な果実肥大が望めない状況です。日本で行われている4〜5花叢で1果まではいかなくても、3花叢で1果程度の摘果を行うことで200〜250g程度の果実を収穫することが出来ます。現在の1樹あたりの収量は同じでも1果あたりの単価が向上するため、農家の収入は2倍程度に増加します。

・ 早生品種「つがる」への品種更新
  → フジは世界的に有名なリンゴのブランド品種です。Annaに比べて、ジャカルタなどの都市部では高単価が見込まれます。また、シンガポールやバンコクなどへの輸出用品種としてもブランド力があります。しかしフジは晩生品種ですので、早生品種Annaのような1年2回の収穫をすることは難しくなります。またフジは貯蔵性が高く、収穫後6ヶ月の長期出荷が可能です。ニュージーランドの高い生産技術と競合するフジの品種導入ではなく、貯蔵性は低いものの食味が著しく高い早生品種「つがる」の導入が適していると考えます。つがる」は1975年に種苗登録されており35年が経過していますので、植物育成者権の許諾料(パテント料)の支払いが不要であり、穂木の輸出は可能と考えます。ただし、インドネシアの植物検疫ルールを確認する必要があります。

● Batu市での富有柿栽培の課題と目標


渋柿の樹があったことから、富有柿の生産は可能であると思います。

・ 台木の育成
  柿は挿し木繁殖が難しく、富有柿を導入する前に台木を育成する必要があります。まず、渋柿の果実から種子を取り出して、湿ったピートモスなどに混ぜて10℃以下の低温で3ヶ月保存します。この処理で種子の休眠が打破されます。
  畑に種子を播種し、シュートを伸長させます。(播種時期は7月前後が良い)
  恐らく、シュートの伸長は停止することなく伸び続けるものと推定します。
  発芽後、半年程度で1.5m程度のシュートが伸長した実生台木が得られます。(1月頃)
  富有柿の剪定枝を日本から輸入します。
  1〜3月の間に、実生台木の基部に富有柿の休眠枝を芽接ぎあるいは切り接ぎを行い、接ぎ木部位の上部で切り戻しを行います。

【私が柿の研究をしていた20年前ことですが、当時日本では西村早生などの早生品種のハウス加温栽培が盛んに行われていました。このときに、収穫期をむかえた樹から発生した2次成長枝に花が着いて開花と結実が同時にみられたことがあります。柿は温帯果樹に分類されますが、亜熱帯果樹に分類される場合もあります。恐らく新梢の伸長は年中休みなく行われ、リンゴの周年生産のように強制的な摘葉処理は不要ではないかと考えますが、経験のないことですので判りません。】