2001年10月7日〜13日にかけて、中国の花き施設生産を調査しました。
★中国の温室
●一般的なビニルハウス
●片屋根式のビニルハウス
●大型ビニルハウス
●オランダ式フェンロー温室
●防虫ネットによる施設
★視察した生産施設
●北京市南部の花郷地区の「盛芳園花卉基地」
●北京市南部の花郷地区の「花郷花木集団 仙客来(シクラメン)基地」
●長春市の「吉林国際農業生物技術開発」
●長春市の「吉林省春蓮園芸工程有限公司」
●北京市北の「北京市林木良種繁育中心」
★シクラメンの生産と品質
★鉢花に使用される園芸培土
●一般的なビニルハウス
北京や長春の北の地域で見たビニルハウスの外観はパイプハウスに見えますが、直管パイプではなく「筋交い格子の入った鉄骨」で出来ており、耐雪構造が強化されています。南の広西省では耐雪構造は必要ないため、一般的なパイプハウスもあります。
●片屋根式のビニルハウス
北風が厳しい北京などの北の地域で一般に見られるハウスの構造で、北側が土壁あるいは煉瓦で作られた壁でできており、南側に「筋交い格子の入った鉄骨」あるいは竹で骨格が組まれており、これにビニルを張って保温効果を高めている。冬季の夜間は筵をかける。冬季に作業が出来るように作業小屋が併設されていることが多い。場所によっては作業小屋に宿泊設備があり、担当管理者が住み込みで管理している場合もあります。400uの温室の建造費は、約50,000元(750,000円)。
当然直管パイプではなく「筋交い格子の入った鉄骨」が使われています。ビニルの上部は直管パイプにビニルを巻き取って固定し、下部は土埋め固定です。被覆ビニルは上下の2枚で張られており、施設内の温度が上昇した場合の換気を行います。
ハウス内は予想外に広く、壁側に通路があり、高さも充分確保できることから、野菜(キュウリ)、切花(キク)、鉢物と何でも生産可能です。暖房は石炭が一般的で、オンドル方式や温湯方式などがあります。
●大型ビニルハウス
南の広西省では、日本でもよく見られる大型の鉄骨ビニルハウスもあります。これは、しばしば台風などの影響を受けることがあるための強風対策を兼ねています。ただし、日射量が高いため上部遮光が不可欠です。また、換気方法も工夫されていました。
●オランダ式フェンロー温室
中国の至る所でオランダ式のフェンロー温室を見ることができます。いずれも超大規模施設で、最低でも2ha程度で最も大きなものでは6haというものがありました。これらの施設ではパッド&ファンが必ずといって良いほど設備されています。
●防虫ネットによる施設
中国では緑化植物(「有機栽培野菜」の意味)が注目されており、防虫ネットによる施設を見ることが多くなってきました。
●北京市南部の花郷地区の「盛芳園花卉基地」
北京市の南に位置する豊台区花郷地区は古い歴史を持つ花卉生産地域です。今回はこの花郷地区の盛芳園花卉基地を視察しました。片屋根式の温室が40棟以上あり、加えてオランダ式のフェンロー温室が3棟ありました。片屋根式温室では鉢花や大鉢の観葉植物などが生産されていました。
フェンロー温室内では、シクラメン、アンスリウム、コチョウランなどの鉢物が生産されており、シクラメンやアンスリウムでは1鉢毎に液肥を用いてノズル灌水を行っていました。シクラメン、アンスリウム、コチョウランのいずれも生育は良く、シクラメンでは「葉組み」が行われていました。栽培管理技術はかなり高く、「さすが花郷の生産会社だ」と感じました。
フェンロー温室内ではアンスリウムの切花にも取り組んでいました。また、この施設は北京市の「有害生物総合防除の模範展示センター」に指定されており、黄色のトラップを用いて管理が行われていました。最後の写真は鉢運搬用の自転車です。
●北京市南部の花郷地区の「花郷花木集団 仙客来(シクラメン)基地」
北京市南の花郷地区にある花郷花木集団のシクラメン生産施設を視察しました。責任者の董聚維氏の説明によると、「10年前にシクラメンを栽培した経験がありますが、今年から本格的に生産試作をを行いました。今年の栽培面積は8000uで試作鉢数は6万鉢です。今年の状況を見て、来年からは10倍の60万鉢を生産する予定です。今年の栽培体系は、前年の10月中旬に種子を箱まきで播種し、2月に鉢上げ、6〜7月に最終鉢に鉢上げした。販売予定時期は来年の春節(旧正月)とのことです。
栽培の特徴として、灌水は一鉢ごとの手潅水ですが、ベンチはあみ網の上にウレタンマットが敷いてあり、潅水の余剰水が再度鉢底面から吸収されるような工夫がしてありました。全体的に葉が大きく、6〜7月の最終鉢上げ後の肥培管理が適切ではなかったようです。施設の環境管理としてはパッド&ファンが設置されており、北京での気候を考えるとシクラメンにとっては最適な環境管理が行われているものと思います。
シクラメンは専門外ですが、取りあえず「葉組み」について指導をしてきました。使用している培土は腐葉土を主体とする配合培土で、シクラメンには申し分ありませんでした。
●長春市の「吉林国際農業生物技術開発」
とにかく広大な施設面積を持つコチョウラン専門の生産会社です。培養施設も完備しており、66台のクリーンベンチで年間300万本の増殖を行っています。培養で増殖した苗は、自社温室で120万鉢の生産を行うと共に、オランダや韓国にも輸出しているとのことです。栽培施設(温室)の面積は4haで、40人の従業員を雇用しています。フラスコから出して開花株として出荷するまでの栽培期間は15ヶ月で、栽培技術はしっかりしていました。培養中の突然変異の発生についても充分な配慮が行われており、1クローンあたりのフラスコ増殖本数は、白色系では1万本、赤色系では5000本、黄色系では300本以内としているとのことです。ちなみに販売金額は1フラスコ(25株保証)あたり5ドルとのことでした。
植え替えに使用していたミズゴケは当然中国産で、毛足の長い良質なミズゴケが使われていました。
●長春市の「吉林省春蓮園芸工程有限公司」
吉林省春蓮園芸工程有限公司の社長の周春蓮さんの案内で施設を視察しました。北京発の飛行機が霧のため3時間遅れ、視察時間が夜になってしまったにも関わらず、快く迎えていただきました。春蓮園芸工程有限公司では緑花木を中心に吉林省全体で30haの圃場を持ち、年間400万元の売上があるとのことです。
残念ながら夜になってしまい、写真が撮れなかったのですが、観葉植物を中心とする鉢物生産も行っていました。観葉植物は組織培養で増殖を行っており、クリーンベンチ40台で、年間100万本の増殖体制が取られていました。鉢物生産に使用されていた培養土は、「ミミズの糞」を50%と松葉の腐葉土を配合したもので、見るからに気相率が高く、生育も極めて良好でした。「ミミズの糞」の年間生産量は10000tで、次回の訪問機会には是非とも見学してみたいと思います。
緑化木の生産圃場ではカバープランツが色々と栽培されており、数品種については挿し木用の穂木を分けていただきました。
春蓮園芸工程有限公司の紹介で、君子蘭の生産農家を見学しました。140uの小さな温室で3000鉢の君子蘭を栽培しており、年間30000元の収入を得ているとのことです。たった140uで1家4人が生活できるとは、君子蘭が単なる園芸植物ではなく一種の投機植物として取り扱われており、「君子蘭のバブル」を感じました。ちなみに長春市の「市の花」は君子蘭だとのことです。君子蘭の植え込み材料は100%腐葉土でした。
●北京市北の「北京市林木良種繁育中心」
北京の友人の李紅軍氏(下の写真の右側の人)の案内で北京市北にある「北京市林木良種繁育中心」を視察しました。北京市は2008年オリンピック開催が決まり、市街地の緑化が積極的に行われています。この北京市林木良種繁育中心は北京市の緑化事業を担当するセンターで、広大な面積に数多くの緑化僕が生産されていました。
露地栽培に加えて施設内でも緑化木の繁殖が行われており、組織培養で増殖した苗や挿し木苗が生産されていました。林木の組織培養技術のレベルは国際水準から見ても高いレベルだと感じました。
施設の有効利用の1つとして、シクラメンの鉢物生産が行われていました。フランスからプラグ苗を購入して9月中旬に定植したばかりとのことでしたが、定植後の施肥管理が適切ではないため、葉が大きく生長し、生産技術は高いとはいえませんでしたが、全体で数万鉢はあるものと思います。試作段階でこれだけの鉢数を生産することに対して、経営的な問題点を感じざるを得ませんでした。
露地栽培での緑化木生産で大変興味深い方法を実施していました。緑化木の苗の畝間にクローバーを植えていました。雑草の防除に加えて、知力向上を図っており、この方式は日本でも見習うべき方法と思います。
今回中国を訪問して、シクラメンが急速に普及し始めていることを感じました。開花期が春節(旧正月)に一致することと、中国人が好きな紅色が綺麗であることから当然とはいえますが、まだ栽培技術が未熟で、特に最終鉢上げ後の施肥管理が適切な状況とはいえず、葉の大きさが不揃いで大きい傾向がありました。しかし、市場で販売されている物には日本でも充分高い品質を維持できている物も見られ、これからの生長が大いに期待できます。